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03 無限の魔力


 俺たちは近くにあった物置小屋に移動した。

 俺が門番のように入り口に立ち、そこでラーラさんが少女の傷を確認する。

「終わったわ」

「どうでした?」


「あの子の体には、まったく傷はなかった」

 ラーラさんは、なんだかわからないという顔で言った。

「最初からなかったんでしょうか」

「そんなことない」

 ラーラさんは首を振る。

 少女もやってきた。

「お兄さんに、治してもらったです」

 少女は言う。


「ちょっと、わけがわからないんだけど……」

 ラーラさんが頭をおさえる。


「あなたが自分で、多少、治したってことかしら?」

 ラーラさんは少女に言う。

「ルルはそんなことできませんです。魔法も、お兄さんに魔力をもらって使いましたです」

「もらった……」


「ルルは、インさんに傷を治療してもらって、魔力をもらって、だから使えたんです。わたしの魔力だったら、あんな魔法なんて使えませんです」


「俺は魔法なんて使えませんけど」

「そうね。イン君からは魔力のかけらも感じられないわ」

 ラーラさんが俺の魔法の可能性をばっさり。


「それに、他人に魔力を与える魔法なんて聞いたこともない」

「できたらすごいことなんですか?」

「魔法は、魔力で決まるのよ」


「魔力がなくても魔法自体はね、覚えることはできるの。単純な攻撃魔法なら魔導書で勉強したらひとつふたつはできるわ。でも結局、魔力なの。使えないのに勉強してもしょうがないでしょ? 使えないっていうのは、つまり……」


「たとえば、さっきルルちゃんが使った炎の壁に、魔力が100必要だとするでしょ? でも50しかなかったら、発動しないの」

「そうなったらどうなるですか」

「どうにもならない。使おうとしても、立ち消えで、なにもしなかったことになる」

「持ってた魔力は使い果たすんですか?」

「ううん。もどってくるから50残るわ。でも、もし用意してる最中に、どんどん魔力が回復したら……」

「100まで貯まる?」

「そう。ルルちゃんが言ってるのは、その100まで足りない分を、イン君からもらったってことでしょ?」

 ラーラさんが言うと、ルルはうなずく。


「普通、途中で魔力を回復できるのは、魔法石くらいなんだけどね」

「そんなの持ってませんよ」

「そうよね」


「ルルちゃんは、魔法の勉強は、してるってことなのかしら」

「ルルは、むこうの孤児院で暮らしてるです。ルルは、本が好きですので、魔導書で魔法を覚えたりしてるです」

 今後、冒険者として生活するという選択肢をつくるために、教えているのかもしれない。


 そんなとき、声が聞こえてきた。

「ルルー? ルルー?」

 

 メガネをかけた中年女性が、両手を口の横にあてて、大声で呼びかけながら歩いていた。

「ママ!」

「ルル? ルル!」

 ママ、と呼ばれた女性はこっちに向かって走ってきた。

 俺は、この町の孤児院では、全体の世話をしているトップの人に対して、ママ、と呼ぶ慣習があることを思い出していた。


 ダッシュで来てルルの前でひざまずく。

「ルル、ケガしてるの?」

「うん。でもお兄さんに治してもらった」

「良かったわね! ありがとうございます、ありがとうございます」

 女性の感謝に、俺はどう言っていいかわからず、うろたえるばかりだった。


 ルルと女性が帰っていったのを、俺はラーラさんと見送った。

 すると今度は町の人がやってきた。


「ありがとう! ありがとう!」

 入れ替わり立ち替わり、ラーラさんに感謝を伝えていく。


 どうやら、魔法使いがウイングタイガーを倒したという話は広まっているが、具体的に、誰が炎の魔法を使ったのかということはよくわかっていないらしい。

 とにかくラーラさんに感謝しておけばまちがいない、という感じで、手をにぎったりさわいだりで大変だ。


 その流れで、宿屋は無料で良いと言うし、ラーラさんたちの仲間がいる治療院の代金も無料になるという。

「それは悪いわ」

「当然のことだよ!」

 ラーラさんの、あまり強くない拒否に、町の人たちは大歓迎だった。


 それと、ウイングタイガーの死体を回収し、貴重品が豊富な各部位は、町の道具屋などが買い取る形にするそうで、その分のお金も払うとか。

 ルルが燃やした分はともかく、最初にラーラさんが氷の刃で倒したやつは、傷が少なく高く売れるという。ウイングタイガーの毛皮は貴重だから特に効果だとか。


「あの、そろそろ、おつかれですから」

 とにかく大騒ぎで、見かねた俺は、魔力切れでフラフラのラーラさんを連れて宿屋へと移動した。


 部屋に入るなり、ラーラさんはベッドに倒れた。

「あー……。疲れた」

「大変でしたね」

「ありがとう」

「いえ、仕事ですから」


 出ていこうとしたら、声をかけられた。

「イン君」

「はい?」

 振り返る。


「ルルちゃんの言ってたこと、どう思う?

「いや、俺はそういうことはわかりませんけど」

「ルルちゃんの傷はどうして治ったのかしら」

「さあ。本人の眠れる魔力ですかね」


「あの子にそこまでの魔力は感じられなかったわ」

「じゃあ、なんでしょうね。俺には魔力ないんですよね?」

「ないわね」

「ウイングタイガーに、魔力を回復させるようなアイテムとか」

「ないわね」


「うーん」

 ラーラさんが横になったまま、うなる。

「じゃ、俺はそろそろ。あんまり長居するのもあれなんで」

「……、イン君」

「はい」

「ちょっと、私を抱いてくれる?」


「……、……ええー!?」


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