29 野菜も安い
魚を売って、みんなで第五大陸の館へともどった。
「やったね!」
「すごい儲かりましたよ」
俺とラーラさんで盛り上がっていたら、グラさんとヘロンさんが、私たちはよくわかりませんが、という顔をしていたので説明した。
「というわけで、港町で魚介類を仕入れて、山間部で売るだけで儲かるんです」
「なるほどねー」
「あらあらすごいですわー」
「じゃあ、あたしらも明日から手伝うよ」
「もう、わたくしたち、魔法研究室へはもどれませんものね」
二人は言う。
「すいません……」
「いいんですのよ。きちんと収入ができそうですし」
「転送魔法って、あんまり使い手いねーから、商売敵はいねえだろうしな」
「そうなんですか?」
「こんな商売に使わなくたって、モンスターの転送やってたほうが金もらえるだろうし、重要な役職ももらえるだろ。メンジ、お前、稼いでたんだろ?」
「……? メンジ、お金もらったことない」
「はあ?」
「メンジ、おいしいごはんもらってたよ?」
メンジは心底不思議そうに俺たちを見る。
「こいつ、騙されてたんじゃねーのか」
「カルメリアでも騙され、その上捕まってうちの国でも便利使いされるところだったとは……」
ラーラさんは首を振る。
「生まれつき両親もいなかったそうです」
俺はヘロンさんたちにこっそり言った。
「……よし。決めた。ここではいい生活しようぜ。メンジが嫌な気持ちにならないような、いい生活をな!」
ヘロンさんは言った。
「メンジ! お前、なんかしてほしいこととかあるか!」
「おいしいごはん食べたい」
「他にないのかよ」
「ない!」
「よっしゃ! うまいもん食わしてやるぞ!」
「やったー!」
ヘロンさんとメンジが遊び始めた。
ラーラさんは、二人を微笑みながら目で追う。
「魚を運ぶ以外にも、逆に山のものを海に運ぶのでもいいかもね」
ラーラさんは言った。
「たしかに」
「物全般を運ぶということでよくて?」
グラさんが言う。
「そうね。人を運ぶのは私たちの存在を良くない相手に知られるかもしれないから、物に限りましょう」」
「しばらくは、たくさんお金を稼ぐことを目標にしましょう!」
「それはちがうと思います」
俺が言うと、ラーラさんとヘロンさんが、は? という感じで俺を見る。
「いや、稼ぐのはいいんですけど、相手が喜ぶようにしたいな、と思って」
「どういうこと?」
「そもそもですよ」
「戦争をして、国を豊かにしようっていうやり方に、俺は反発して、みなさんはついてきてくれたんだと思うんですよ」
「戦争で儲けようっていうのは、人が嫌がることで利益を出そうっていうことですよね」
「だったら、逆をやってやろうと」
「逆?」
「はい」
「俺たちは、基本的に、人が喜ぶことをしましょう」
「今日も、山の人に海の幸を届けて、喜んでもらえたじゃないですか。あれを基本に、喜んでもらえるように、っていうことを第一にやるんです」
「そうすると、戦争をする必要がなくなるんじゃないかなって、思うんですよ」
「なるほど……?」
「なるほど?」
「具体的には、どういう目標?」
「それはまだわかりません」
「なにをするの?」
「とりあえず、今日も海の幸を届ける方向で」
「同じってこと?」
「ちがいます」
「昨日は儲けるつもりでしたけど、今日はいいことをするつもりでやります」
というわけで海の幸を山間の町に届けてたくさん売った。
昨日と同じ値段でもやっぱり飛ぶように売れたので、価格設定はこれでいいのかもしれないけれども、たくさん買ってくれた人にはおまけをつけたりして、喜んでもらう。
やった!
「いやあ、助かったよ。昨日の魚もうまかった」
とひとりの男に肩をたたかれた。
「どうも」
「ちょっと待ってろ」
と走っていった男が持って帰ってきたのは」
「これ持ってけ」
たくさんの大根だった。
縄で縛って二十本くらいあるだろうか。
力強いというか、立派な大根ばかりだった。
「いくらですか……?」
「ただでいいよ、こんなもん。どうせ捨てんだから」
「捨てる?」
聞けば、たくさんとれすぎて、全部売り物にしてしまうと、価格が下がりすぎてしまうので、あえて捨てるのだという。
「品質に問題はねえから、うめえよ。ちょっとこのへん、かじってみな」
男は大根を折って、わたしてくれる。
「先は辛いけど、このへんならいいぞ」
俺はおそるおそる食べた。
「……うまい!」
みずみずしいし、あまみすらあった。
「だろう?」
「これ、買います」
「やるって言っただろ」
「いえ、ちょっと待っててください!」
俺は急いで港町に行って、露天で売る許可を得て、大根をならべてみた。
通常の倍の価格設定だ。
見た人は、立派な大根にさっそく興味を示す。
だが値段を見て、ちょっと手がのびないようだ。
「どうぞ」
俺は大根を切って、寄ってきた人に、ちょっと生で食べさせてみる。
「おいしい!」
試食が効いたのか、みるみるさばけてしまった。
「売れました」
「なに?」
港町の価格の倍をつけても売れたと伝えると、男は大喜びした。
そして、ただでくれるという。
「どうしてですか」
「そんないい値で売れたのがうれしいんだよ。それに、あんたは魚を持ってきてくれるからな」
「ただというわけにはいきません」
どうしても払う、いやもらわない、という押し問答があって、なんとか格安で買うことで話がついた。
「しょうがねえから金を払わせてやるんだぞ、わかったな」
「ありがとうございます」
よくわからない会話を経て、なんとかうまくまとまった。
これからもつながりを持てば、魚、野菜の安定供給ができそうだ。




