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26 大陸間移動




「ラーラさん。インさん」


 グラさんが、ぽかんとした顔で俺たちの前にいた。

 それはそうだろう。

 いきなり、メンジの転送魔法で魔法研究室の前に跳んだ俺たちによって、このカルメリア近くの草原にさらわれてきたのだから。


「ここは? あの、平気でしたの? 牢屋から逃げて兵に追われて大変なことになったとお聞きしましたが」

 グラさんは言った。

「グラ。私たち、第五大陸に行きたいの。協力してくれる?」

 ラーラさんは氷の刃を出し、グラさんに突きつける。


「第五大陸へ? なにをしにいくんですの?」

 グラさんは突きつけられたものを気にせず言う。

「私たち、人のいないところで生活することにしたから。戦争はもう嫌なの」

「なるほど……、おもしろい考えですわね」

 グラさんはうなずいて、刃にあたりそうになる。


「あぶないですわ」

「危なくしてるのよ」

 ラーラさんは言う。

 グラさんは首をかしげる。

 ……なんだかかみあってない。


「それでは、またヘロンさんもお連れして、一緒にいってはどうでしょう。第五大陸は魔物が大きくて危険と言われています。ヘロンさんの破邪魔法が効果的では?」


「わたしも、戦争はもう嫌です。他の国に移りたいと思っておりました」

 グラさんの、あっけらかんとした態度に、俺たちは違和感。

 ラーラさんと顔を見合わせる。


「あなた、私がイン君を助けに行くって言ったら、一緒には行かないって言ったわよね。イン君のためにがんばる気はないし、戦争に加担するって決めたんでしょ?」

 ラーラさんはいくらか大きな声で言った。


 俺を脱獄させる前に、意見は聞いていたらしい。

「それは言いますわ。本当に脱獄させに行くとは思いませんもの」

「……」

 黙るラーラさん。


「インさんが、もう戦争したくないとおっしゃって、それを王様に伝えに行ったラーラさんの方がおかしいと思いますわ」

「それは! 王様に、そう言えばわかってもらえると思って……」

「ラーラさんは先走りすぎです」

「う……」


「インさんもインさんですわ」

「俺?」

「インさんは、城下町の門で捕まったそうですね。どうして私たちに相談しないで行ってしまったのですか?」

「それは、俺が言ったとき、みんな乗り気じゃなかったじゃないですか」


「仕事先を失うのですから、慎重になるのは当然ですわ」

「それはまあ」

「それに、あんなところで王様に対する反逆行為とも取れる話をするなんて、いくらなんでも配慮が足りませんわ」

「すいません」


「でも、さっきは、一緒に行く人はいないかきいたときに、誰も出てきてくれなくて……」

「わたしたちも研究で忙しいんですの! それに外でいきなり言われても対応できるわけないですの!」

「すいません」


 それはたしかにそうだ。

 こっちは脱獄してるから、気持ちが同じ人は呼びかけるだけで集まってくれるはず、というノリだったけど、みんなはみんなの予定がある。

 いきなりは無理!


「ヘロンさんも、戦争はもうこりごりだとおっしゃってましたわ。でも、インさんもラーラさんも、いろいろと早すぎるんですの」

「すいません」

「ごめんなさい」


 というわけでヘロンさんも連れてきて、話をした。

「第五大陸なら、人も住んでませんし、領地としての価値も薄いですし、遠いですし、魔物も多いですし、わざわざ俺を狙う人もいないだろうということで、現状、ここが良いのではないかと思いまして」


「なるほどな。第五大陸か」

 ヘロンさんはうなずく。

「……一緒に行ってもらえます?」

「いいぜ」

 ヘロンさんはにかっと笑って応えた。


 というわけで出発しようとしたが。

「この子はなんなんだ?」

 ヘロンさんは、メンジを見て言う。


 俺の上にラーラさん、その上にグラさん、ヘロンさん、一番上にメンジ、という積み上がり方をしていた。すでに無重力化している。


「メンジは、転送魔法を使えるので、万が一のときに便利なんです」

「メンジ、便利!」

 メンジは表情をひきしめた。


「この子も第五大陸で暮らすのか?」

「メンジが一番戦争嫌い。だから行く」

「あたしはいいけどさ。親とかは?」

「メンジ、親いない」


「……そっか」

 ヘロンさんはメンジの頭をなでた。


「では、出発!」


 空にあがってからは、ラーラさんの風魔法の制御で飛ぶ。

 上空の風も、こちらに来る前に強い風をぶつけてできるだけ相殺しているようで、あまりゆさぶられることもない。


「このまままっすぐですわ」

 グラさんが地図を見ながら言う。

「わかった」


 ラーラさんはだんだん速度を上げていく。

 体へのゆれも大きくなるが、ラーラさんは気にしていないようだった。


「あれは?」

 大きな湖が見えてきた。

 と思ったら違う

 どんどん広がっていく。


「海です」

「あれが」


 青い。

 どこまでも続いていく。

 話には聞いたことがあったが、こんなことになっているとは。


「てことは、第二大陸は終わったんですか」

「そうね」

 ラーラさんが言った。


 大陸の終わり。

 そんなところまで自分が来るなんて思わなかった。


 また大陸が始まる。

 今度は森が多く、高い山はあまりない。


「これが第四大陸。このまま行けばすぐ見えるようになると思うわ」


 と言われて前を見る。


「あれ、ですね」


 見てすぐわかった。


 大陸の上空に黒い雲がたまっていて、大陸の周囲に高い山が見える。

 崖に囲まれた地形で、船では近づけないだろう。


 と。


 なにか、鳥のようなものが飛んでくる!

 もっと大きい!

 人より!


「ヘロンさん」

「はいよ」

 

 鳥がぶつかる直前、俺たちの前に光の壁が現れた。

 鳥のようなものは壁に弾かれ、落ちていく。

 海に落ちる前に羽ばたき、また舞い上がった。


 追っては来ないようだ。


「あれは風食い鳥ね。まともに戦ったら大変かもしれないわ」

 ラーラさんが言う。

「あたしがいなかったらおしまいだったな」

 ヘロンさんが笑う。


「風も強くなってきた」

 空気の壁に殴られたように進路が変わることが増えてきた。

 ラーラさんがその都度修正する。


「あんなのがたくさんいるのが、第五大陸ですか」

「そう。やめる?」

「行きますよ」


 何体かの風食い鳥を弾き返しながら、俺たちは、絶壁に囲まれた大陸へと降りていった。




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