21 投獄
「ごめんなさい」
賛同者はいなかった。
みんなは魔法研究室へ行くと言っていたが、俺は宿屋へもどることにした。
兵士がひとりついてきて、宿屋へと向かう。一応の護衛だという。
そんな身分なんだな、と思いながら宿屋へ。
部屋へはひとりで入った。
ベッドに横になる。
戦争に参加しない宣言は断られてしまった。
当然かもしれない。
魔法に関して、まだ研究したいことはあるだろうし、戦争に協力すればそれは実現するのは確実だ。
戦争に勝っていけばどんどんお金も入ってくるだろう。
研究の環境は整う。
彼らにとって、願っていた状態になるんだ。
でも、俺にとってはどうでもいい。
魔法の研究を進められるからといってそれがなんだ。
強奪した資産を魔力や魔導書に変換しているようなものだろう。
もうこの国にはいたくない。
立ち上がり、窓から下を見た。
さっきついてきた兵士がまだ下にいる。
しばらく待っても、やはり変わらない。
出ていったら気づかれるだろう。
自分の体の大きさがうらめしい。
だがしかたない。
一階へと降りていく。受付に面している側ではない、もうひとつの階段だ。
降りていって、従業員しか入らないドアを確認する。
しばらく陰から見ていた。
ふと、ドアが開いて従業員が出てきた。
俺は、イチかバチか、従業員がいなくなってから、その中に入ってみる。
そこは控室かなにかのようだった。
客間と同じか、ややせまいくらいの広さで、外に出られるドアもあった。そこから入ってきて、身支度をして仕事に入るのだろう。
俺はそこから宿屋を出た。
裏路地を早足で進む。
もうここは城下町だ。
城壁には囲まれているが、出入り口を兵が見張っているわけではない。
逃げられる。
こんなところにはいられない。
町にもどりたいが、きっとここから誰かが追ってくるだろう。
新しく、安全に住める場所を探さなければ。
このままいれば、いい暮らしが待っているのかもしれないが、そもそも俺はそういうことはどうでもいい。
ギルドの荷物運びで全然いい。
ちょっとお金をもらっておけばよかったと思ったけれども、すぐその考えは打ち消した。
山の中で木の実を探して生きている、動物のような暮らしでいい。
最悪死んでもいいじゃないか。
世界征服の材料になるのはお断りだ。
この国が世界をとっても、力で支配するのは目に見えている。
そもそも俺は、別に権力も金も欲しくない。
平和に暮らしたいだけだ。
どんどん進んでいき、城下町の出入り口が見えてきた。
よし、とりあえず出よう。しばらくは草原だから、走って森かどこかに入ればいい。
走ると、泥棒かなにかとまちがわれるかもしれない。
と思ったら、急に城壁の扉のところへ兵がやってきた。
そして扉が閉まり始めた。
どういうことだ。
扉は閉まった。
そして、城の方から兵が続々と城下町にやってくるのが見えた。
兵や、商店や、路地にも入ってきた。
誰かを探しているかのようだった。
そして俺を見つけると、兵は集まり、俺を城へと連れていった。
連れていかれた先は、城の地下にある牢屋だった。
罪人がたくさんいるようで、連れていかれる途中、鉄格子の向こうに捕らえられている男たちを何人も見た。
俺は牢獄のひとつに入れられると、手足に、壁からたれさがってきた鎖の先についている金属の輪をはめられた。
鎖が長いので牢屋の中は自由に動けるが、仮に鉄格子がなかったとしてもここから脱出するのは難しそうだ。
兵が帰っていくと、声がした。
「お前、なにやったんだ」
向かいの牢屋だった。
髪もヒゲもボサボサになっている男がニヤニヤ笑いながら俺を見ていた。
彼は、手足に鎖をつけられていない。
「その格好からして、殺しでもやったか?」
「やってない……、直接は」
「おおー。もっと悪いやつじゃねえか」
男はますますニヤニヤする。
「何人やった」
「……わからない」
「わからないってこたあねえだろ。ひとりか、ふたりか、五人か十人か」
「たくさん」
「なんだ? 国家反逆でもやったか?」
「……」
まだやっていないけれども、ある意味ではそういうことなのかもしれない。
もう俺は国にとって、所有物か。
「本当はなにやったんだ? なあ?」
男は言う。
「別に。女を抱いてただけだよ」
「おいおい力づくか? ははは!」
「兄ちゃん! 詳しく聞かせろよ!」
「どうやったんだ? どんな女だ?」
急に、あちこちから声がかかる。
「……美人の魔法使い」
「ひゅー!」
「髪は長いのか? 短いのか?」
そのとき、重そうなドアが開く音。
それから、足音が近づいてきた。
すると男たちはいっせいに黙った。
それから、小さな、とまどいというか、どよめきというか、そんな声がして、足音の主が俺の鉄格子の前に現れた。
王様だった。
他に三人兵がいるが、兵隊長もいる。
「イン君。逃げようとしたそうだな」
王様は言った。
笑顔はなく、見下すような顔だった。
「お前が逃げたことを知ってるということは、どういうことかわかるな?」
兵隊長は言った。
「お前が国に協力をしないという報告を受けたからだ」
「魔法使いからですか」
俺は言った。
「そうだ。ラーラと言ったか」
「まさか」
鎖が床とこすれて音がした。
ヘロンさん、グラさんあたりなら、俺が反抗的な態度をとっていたのを問題視してなにか言った、ということもありえなくはない気がする。
でも。
ラーラさんが?
信じられない。
「せっかく、無礼なことを言い続けるイン君の自由を尊重しようと思っていたのだがな。協力を断るようでは、手荒な方法をとらざるをえんな?」
王様は言った。
「君はこれから、幸福の像、になってもらう」
「幸福の、像?」
「君に抱えられた魔法使いは、魔力を無制限に回復できる。それも、上に連なれば何人でもだ。ということはどうだ? イン君を、人を抱える形で拘束してさえいれば、おぬしの意識は全く関係なく、効率的に使えるのではないか?」
「え?」
「我々は、君という器があれば良い。そこに魔法使いがのせられるようになっていればな。ということはどういうことかわかるか?」
「これからおぬしは、一切の自由は没収する。わが国のために、死んでもらう。いや、生き続けてもらう。像のように自由はなく、眠り魔法で意識もなくさせる。だが治癒魔法で命を存続させる。それで、おぬしが死ぬまでずっと使い放題というわけだ」
「おぬしの意識に関係なく、な」
「必要だ、と言われて強硬策は取らぬと安心していたか? こちらも、そんなことをせずにいようと思っておったのだ。人殺しは嫌だ嫌だとダダをこねても、許しておった。いくら効率が良くなるからといって、協力者を拘束するような真似はな。ひどいのではと。だが」
王様は鉄格子に顔を近づけた。
「だが、イン君が他国に行くようなことがあれば 国の未来に関わる。もはや猶予はないのだ」
「安心しろ。眠らせるから苦痛は感じぬぞ。これからしばらく、眠っていれば良い」
王様は笑った。
兵隊長も笑った。
兵士たちも笑った。
「明日にも拘束具をつけさせよう。今日一日、普通の人間としての暮らしを楽しむがいい。すこし空気が悪い場所だがな。わが王国に、栄光あれ」
王様は言うと、笑いながら去っていった。




