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02 撃退と回復


 俺は彼女の横にしゃがんで彼女の体を抱き上げた。

「治療院に運んできます!」

 そう言ったときだった。


「モンスターだ!」


「逃げろ!」


「うわあ!」


 あちこちから声があがる。

 

 ラーラさんが見上げた。

 空。


「あれは」

 少女はなにもないところから出てきたわけではなかった。

 小さな粒に見えた影が、だんだん大きくなってくる。


 俺の足がガクガクと足が震える。

「治療院に行ってる時間はないわ! 建物の中に逃げなさい!」

 ラーラさんが声を張り上げながら、右手を青く光らせる。

 

 ジャイアントタイガーに羽が生えたような形。

 ウイングタイガー。

 本物だ。


「町に、出てくる、なんて」


 あちこちから叫び声が聞こえる。

 足の震えが止まらない。

 殺される。

 殺される。


「イン君、走りなさい」

 ラーラさんは空を見ながら言う。

 足が、足が震える。

「ラ、ラーラさんは……」

「急ぎなさい!」


 ラーラさんは、突き出した右手を自分の前でぱっと開いた。

 手が大きく光と氷の槍が飛んでいった。

 腕ほどの長さで剣のように鋭いそれは、ウイングタイガーへと一直線。

 

 だが、ウイングタイガーは大きな羽ばたきで体を浮かすと、槍をやりすごしてしまった。


 ラーラさんは続けて、左手を光らせると、空間をひっかくような動きをした。

 すると、それたはずの氷の槍がくるりと回転。


 もどってきて、ウイングタイガーの後頭部に突き刺さった。

 ウイングタイガーは、叫び声を上げながら、俺たちの近く、地面に落ちた。


「うわっ!」


 ラーラさんの右手から生まれた氷の槍で、もう一撃。

 ウイングタイガーの目と目の間に深々と突き刺さる。

 ウイングタイガーは、びくり、と動いてから、身動きをしなくなった。


 倒れているウイングタイガーの爪は、それぞれが短刀のように鋭い。

 腕の中の少女を見る。これにやられたのか。


「なんとかなりましたね」

 ラーラさんはこっちを見た。

「早く、逃げなさいって、言ったでしょう……」

 ラーラさんはひざをついた。

 

「ラーラさん?」

「もう魔力がないのに……」

 見上げるラーラさん。


 空には。

 ウイングタイガーが。

 一匹、二匹、三匹。どんどん出てくる。

 そうだ、町のあちこちで叫び声が上がっていた。


 六匹。

 空をまわっている。

 おしまいだ。

「ちょっと多くない?」

 笑うラーラさんの右手が青く光る。


 ウイングタイガーは、出方をうかがうように空にいる。

「様子を見てる。チャンス。走って逃げなさい」

「あの、俺……!」

 足が一歩も出ない。


「行きなさい!」

 ラーラさんの声を合図にするように、羽を横に広げたウイングタイガーが、いっせいに突っ込んでくる。

「くっ」

 ラーラさんが右手で氷の槍を出した。

 と思ったが、民家にできたつららのように細く小さい。


 ウイングタイガーは避けようともせず、額で氷のつららを砕いた。


 そのまま突っ込んでくる。

 足が動かない。

 俺は、どれだけおくびょうなんだ。

 ラーラさんが、命がけで足止めをしてくれたのに。

 ラーラさんも抱えて逃げる体力はあるのに。


 気持ちがたりない。


 ウイングタイガーが大きく口を開けた。


 そのとき。

 俺の前に赤く光る腕が突き出された。

 俺の抱いていた少女の腕だ。


 腕が大きく光ると、一瞬視界がゆがんだ。

 直後、俺の体よりも大きい火の玉が発射された。

 一番近かったウイングタイガーに命中すると、ウイングタイガーはあっという間に炎に包まれた。

 炎に包まれたウイングタイガーは地面に落ち、のたうちまわっていたが、動かなくなった。


 他のウイングタイガーは急上昇する。

 それに対して少女は火球で追撃。

 連続で放つ。

 ドン! 

 ドン!

 ドン!

 ドン!

 二匹目に当たって大炎上した。


「すごい」

 ラーラさんがつぶやいた。

 直線的に飛ぶ火球を避けながら、ウイングタイガーの一匹の目が光った。


「いけない!」

 ラーラさんの声のあと、俺の体が極端に重くなった。


「う、ぐ」

 ひざをつく。立っていられない。

 これが、重力魔法……?

 ラーラさんは地面にはいつくばっていた。


 ウイングタイガーは四方に散った。

 直線ではなく、ゆらゆらとふらつくような軌道でせまってくる。


 火球、火球、火球。

 しかし当たらない。

 残った四匹がいっぺんにせまってくる。

「やられる!」


 少女は叫び声をあげた。


 手から広がった赤い光が、俺たちを包むように広がった。


 その光の一番外側に、炎が現れた。


 俺たちを囲むように、炎の壁が地面から立ち上がる。

 飛び込んできたウイングタイガーたちが炎上した。

 羽ばたこうにも、羽はすでに大きく炎上し、使い物にならなかった。

 地面に落ちたウイングタイガーが熱にもだえる。

 しかし不思議に、赤い光の内側にいる俺は熱さを感じなかった。


 少女は赤く光る腕を突き出し……。

 ぐっ! と強くにぎった。

 ウイングタイガーたちから、高く火柱が上がった。


 炎の中でウイングタイガー、ウイングタイガーだったのもよくわからないほど、黒焦げになっていた。


 赤い光が消える。


「おろしてくださいです」

 少女が言った。

「あ、ああ」

 自分が言われていると思わなくて、ちょっと遅れた。

 重力魔法の影響も消えていた。


 地面に立った少女はしっかりとした足取りだ

 血は止まっているようだ。


「早く治療しないと、イン君、治療院へ」

「だいじょうぶです」

 少女は言った。

「だいじょうぶなわけないでしょ」

「お兄さんに治してもらいました」

 少女はそう言って俺を見る。


 ラーラさんは、少女の腹部をさわった。

「……え? ちょっと、ごめんなさい」

 上着の裾から手を入れる。


「……どういうこと?」

「どうしたんですか」

「ケガが、ない」

 ラーラさんは言った。

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