手合わせという名の兄妹喧嘩-3
「攻撃を防いだだけで調子に乗るなよ。フェネクスを倒すことは不可能だ!そいつは不死鳥、安易な魔法じゃびくともしない!」
「そうかもね、でもそれには例外も存在するよ」
次の攻撃をしようとするフェネクスを他所に、ダークはキョロキョロと辺りを見回してラグを探し出す。
ラグを見つけたダークはフワッと笑みを浮かべた。
「何をしても無駄さ」
ライトはつまらなそうにして鼻で笑ったが
突進してきたフェネクスに避けることもせずダークは杖を向けた。
「不死鳥って初めて見たけど、ライト兄さんはその子の事を理解しきれてないのね。扱い方が雑すぎるもの。その子はまだーー」
「ゴチャゴチャと何を言ってる?独り言なら牢屋でしろ!」
ただの戯言と思ったようでダークの話の途中でライトは命令を下した。結果フェネクスの巨大な図体がダークに直撃する。
「はぁ、人の話は最後まで聞いた方が良いと思うんだけど。そうすればこんな風に不死鳥君が消えることも無かったのに」
それはまるで花火のようだった。ダークの目の前でフェネクスは爆風とともに大きな爆発を起こして鮮やかな火花を散らした。
それを見ていた者は熱気と眩しすぎる爆発から顔を隠す。
ライトも当然すぐに目を覆ったが、事の結末を知るために目を細めながら眼前に広がる光景を見た。
「なっ!?これは・・・どういうことだ・・・」
地面にはさっきの爆発により付いた焼け焦げた跡。
そして、何事もなかったようにたたずむダークの姿。
彼女の服には目と鼻の先で起こった爆発による焦げた痕跡も爆風で乱れた様子もなかった。
「爆発したのか?皇子のお考えか?」
「ワシにはあの悪魔が消したように見えたぞ」
観客席からはフェネクスがどちらの思惑で消えたのかと困惑する声で騒然となった。
「ライト兄さんの魔力は不死鳥君を維持するだけで精一杯だったの。あの子が本来の力を発揮するには不充分すぎて、攻撃すれば簡単に消滅しちゃう」
「そんなことありえない!フェネクスが消滅するなんて・・・・あいつは不死鳥なんだぞ?お前、その杖に何か細工しただろ!」
ライトは取り乱して大声を張り上げた。
それもそのはずだ。
ライトの魔力の大半はフェネクスの召喚に費やしてしまい、今から魔法を使って戦うとなると不利すぎる
「杖?これは用意されてた物だけど、疑われてるならこれは使わない方が良い?」
ライトの杖と違って素材はどこにでもある木で出来ているし、質素かつ安物である
その杖をダークはポイッと投げ捨てた。
つまり、今のダークは丸腰であり、ただの少女でしかなくなってしまった。
「・・・あの悪魔、杖を捨てよったぞ?」
「降伏のつもりか?」
「皇子の力の前で絶望しておるんじゃろう」
騒ぎ立てたライトとしては喜ばしいが、魔法以外の力を持っていない悪魔が杖を捨てたということは試合を放棄するということなのではと思っても仕方がなかった。
「これでいい?」
ダークは平然として無防備のままライトの前に立ちはだかる
杖を捨てても降参する様子は一切ない。
それもそのはずだ。
ダークは杖がなくとも魔法を使用できるのだから。
しかし、そんな事を知らない審判は魔法を扱う者として杖を捨てるという大胆な行動に出たダークに戸惑う
「皇子、新しい杖をお持ちしますか?」
さすがの審判も困り果てて皇子の反応を待った
「怪しい細工を施す奴に杖なんか渡す必要はない!」
ライトは自分の最大限の魔法をいともたやすく打ち消されてしまったのだからプライドをギッタンギッタンに踏み潰されたも同然だった。
しかも尊敬する国王の眼前である。
手合わせというのも忘れダークを敵視する。その悔恨は深い
「皇子の言葉は無視せよ」
審判はライトと国王の顔色を窺いながらも国王の進言を優先させて一旦退場して新たな杖を持ってきた
「・・・貸せ!細工がないか確かめる!」
ライトは審判から新しい杖を奪い取り、杖に怪しい魔力が付与されていないか確かめ始めた。
「心配症だね。魔力の消費が気になって試合にならないなら一回休憩しようか?」
始まってまだそんなに時間は経っていなかった。
「黙れ」
ここで休憩を入れても誰も表立って文句は言わないだろうが、貴族や大臣からのライトへの信頼はガタ落ちすることは明白。
大臣たちの口は堅いがあまりにも力量差が異なった試合を見せれば、少なからずこの試合についての噂が立つ。
それはこれからの将来に大きな障害を伴うことは間違いなかった