悪魔の子(双子の妹) ダーク=フリージス
微かなロウソクの明かりだけがその場所の唯一の光だった。
窓もない、外の明かりなんてもってのほか。
そこは地下の牢獄なのだから。
しかも、ただの悪人が入る牢獄ではない、死刑を待つ極悪人しか投獄されていないのだ。
そんな場所に似つかわしくない少女が一人。
「今日のラグさんは楽しそうだね。良いことでもあったの?」
少女は幼さを残した顔つきに真っ白な髪、真っ赤な目を持ち合わせていた。
彼女こそが悪魔の子と呼ばれている少女、本来は皇女と呼ばれるべき人物である。
「・・・お前には、そう見えるか?」
黒いローブを着ているラグと呼ばれた謎の人物は、目深にフードを被って顔を隠しているので表情は見えない。
それなのに牢の中の少女は見事にラグの感情を言い当てた。
「当然。何年ラグさんと一緒にいると思ってるの?15年だよ?それだけ一緒に居ればラグさんの感情の一つや二つ簡単に言い当てれるんだから」
少女はニコニコ笑ってラグと話している
「そうか、もうそんなに経っていたのだな。・・・ダーク、お前に国王からの命令が下った」
ダークという少女は一瞬だけ目を見開いたが、すぐに今までのにこやかな顔に戻る
「国王が私に?悪い予感しかしないなぁ。こないだの視察の時からおかしいとは思ってたんだ。今まで私なんかに会いに来たことなんて1度も無かったのに急にこんな所に自ら来てさ、とうとう殺しの命令でも出してきたの?」
あの人の最愛の妻、つまり私の母親を自殺に追い込んでしまった要因は少なからず私にある。
私にはどうしようもなかったとはいえ、国王であるがゆえに女王を非難した国民に怒りをぶつけるのは不可能だ。
そんな国王の怒りの矛先が私に向けられてもおかしくはない。
むしろ、私が今日まで生きている事の方が奇跡だと言える。
「そんな事でどうして私が楽しいという感情を持って、お前に報告せねばならないのだ・・・」
ラグは呆れ返るのを通り越して、ローブを着ていても分かるほどに肩を落とした。
「えー?他にどんな命令を私なんかに出すの?」
「お前を・・・外に出せと・・・」
私は言葉を失って信じられないというような顔をラグに見せた。私にとって一生無縁の言葉だと思っていた1文が聞こえた気がした
「・・・どういう心境の変化?なんで急に私をここから出すなんていう戯言を仰ったのかな?それ相応の理由はあるんでしょ?」
「それは・・・この世界に異変が起き始めているからだ・・・国王は皇子に原因を突き止めよと命令を出した・・・その護衛にお前を連れて行かせるようだ・・・」
ラグの説明を聞き、その理由に大いに納得した
「なーんだ、そういうことね、むしろ死んでほしいと望まれてこその囮役。死んでも困らない消耗品といったところかな。」
私は苦笑した。
国王である実の父親にわずかに期待してしまったのだ。
そんなことは有り得ないのに、私はあの人に生きることを許されたのだと勘違いしてしまった。
しかし、そんな淡い期待は儚くもすぐに打ち砕かれる。
すでに期待することは諦めていたはずなのだが、一瞬でも頭をよぎるのだ。
私が許される日は来ないということを忘れてしまう、そんな自分が憎たらしい。
「ダーク・・・自分を傷つけるのはやめろ・・・お前の夢が叶うのだ、素直に喜べ」
ラグは複雑そうな顔をするダークに鉄格子の間から手を伸ばして頭を撫でてあげた。
「でも15年間ずっとここにいて、いきなり外に出られるって言われても全然実感が湧かないね。戸惑いはするけど確かに楽しみではあるよ。ラグさんに教わった魔法や知識を活かせるチャンスだと思うとワクワクするし。」
「・・・ただ、皇子がそれに反対しておってな・・・1ヶ月後に手合わせをしたいと言い出しておる・・・やれるな?」
ダークは大きくうなづいて「あっ」と言ってラグの耳元で小さな声で話した。
「それならラグさん!私、用意してもらいたい物があるの。」
呟かれた言葉を脳に刻み込みラグは了承の意を唱えた
「分かった・・・それまでに用意しよう。」
「でも、戦っていいの?もしかしたらまた暴走してしまうかも」
ダークは不安がって心配そうにラグを見る
「お前は何も心配することはない・・・そのために用意するのだろう・・・大丈夫、私がいる。」
肩の力がフッと抜けたダークはラグの手を握る
「うん。私、頑張るね」