王子 (双子の兄) ライト=フリージス
「父上!父上はおりますか!」
王宮の中で大きな足音を響かせながら、玉座の間という国王が在中している部屋の扉を開ける少年がいた
「そんなに慌ててどうしたんだ?」
国王を見つけた少年は駆け足で玉座に近づいた
普通ならこの時点で国王がいる玉座の間での失礼な態度を改めさせる所だが、国王の側近ですら何も見なかったことにして目を閉じる。
何故ならこの少年は自分たちが仕える国王の息子であり、この国の皇子であらせられるからだ
「父上っ・・・お前たちは少しの間だけ出ていっててくれ」
国王を取り巻いていた人々は不満そうな顔を一瞬だけするが、バレないようにすぐさま返事をして部屋の扉を閉めて外で待機する
「よし・・・父上、風の噂で聞いたのですが、牢に閉じ込めている悪魔を外に出すという話は本当なのですか?」
少年の方を見て国王は微笑みながら肯定した
「本当さ、ライト。お前の旅であの子を同行させることに決めたんだ」
信じられないかのように目をパチくりさせて国王を見るが冗談を言ってるようには見えない。
「一体どうしてですか?何故わざわざ悪魔を外に出すなんてことを・・・あのまま一生閉じ込めておくのがこの国のためだと思います!」
「ライト、口を慎みなさい・・・他の者にも内緒にしていたが数日前にあの子に会いに地下牢へ行ったんだ。本来なら自分を長い間、牢屋に閉じこめている私に怒ったり怨みごとをぶつけてもいいと思わないか?」
国王の疑問に答える事なんかよりも国王から投下された衝撃発言のほうが大きすぎて頭に入ってこない
「父上が地下に行った話など聞いてませんよ!」
「誰にも言ってないからな。お前にだって今話しているんだから」
ライトは呆れたように頭を抱えるがハッとして国王と向き合う
「まさかお一人で行ったなどとは申しませんよね?」
「もちろん一人で行ったさ。他の者に言ったところで嫌がるだろうし、お前に言ったら止めるだろ?」
ライトは愕然としつつ悲痛の表情を見せた
「お怪我は・・・お怪我はございませんでしたか?」
「無傷だよ。あの子は私を敵視してなかったんだ。実の娘を閉じこめていたこんな悪逆非道の男に、あの子は文句の1つも言わず礼を言ったんだ。生かしてくれてありがとう、とね」
国王は愛しそうな目でうつむいて苦笑した
「それがどうして今回の俺の旅への同行に繋がるのですか?」
「会ってみて分かった、あの子は強いぞ。お前を助けてくれる存在だ。だから同行者としてあの子を推薦する」
一目会っただけでそんなに信頼を寄せてしまっている国王が心配だし嫉妬すら覚えるライトは唇を噛み締めた
「父上、何故そんなに悪魔・・・いえ地下牢の女を信用されるのですか?何らかの魔法をかけられたのではないですか?」
この世界では魔法が存在する。
もちろん才能に影響されるので誰でも扱えるわけではないが、簡単な魔法なら一般人も使用している。
地下牢で魔法を使えるとは思えないが、それを疑ってしまうほどの国王の入れ込み具合だ
「魔法?いいやこれはただの自分の私情さ。国王としてはあるまじき行為だが、あの子だって私の娘だ。自由になってほしいと願ってしまうのだよ」
「違う。アイツは悪魔だ。人間ですらない。アイツが生きているだけでこの国は壊れてしまう・・・」
ライトは小さな声で呟いた。
「お前はどうして双子の妹をそこまで嫌悪するのだ?確かにあの子の見た目は異色だが中身はいたって普通のーー」
「国民の声に従って自分の娘を閉じ込めた方のお言葉とは思えませんね。些細な事でも国民の信頼は崩れてしまいます。それが王家の子として産まれたのが悪魔の象徴を持った者なら当然、国は危うくなります。だからあなたは娘を地下牢に追いやった。それを今更何があったというのですか!」
国王の行ったこと対して間違いはない。
だが、今回は違う。
これは間違っているのだ、アイツを牢から出すなど世界の終わりを意味する。
「・・・これは私が決定した事だ。口を挟むことは許さん」
「それなら、同行者の決定権は俺にあるはずです。何もきちんとした理由が無いわけではありません。今回の旅は世界の異変を突き止めるためですよね?でしたら弱者を連れて行っても足でまといになって邪魔なだけです。なので、手合わせさせてもらえませんか?俺と対等な実力を持っていれば同行を許可しましょう」
ライトは自分勝手に決めつけた。
「分かった。お前がそれで良しとするなら私は構わん。」
国王の言葉に余裕の笑みを浮かべて部屋を出て行った
皇子として修練させられた剣技。
それに加えて魔法だって会得している。
閉じ込められていた人間に負けるなんてことありえない。
そう考えているのであろう。
だがそれは相手が一般人であった場合でしか当てはまらない。
相手は私の娘。
しかも女王だった妻の才能を大いに引き継いでしまっている。
あの子が勝てる見込みはない。
「”ラグ”いるのだろう。このことを”ダーク”に伝えてくれ。戦わなくても差は見えている。あの子に最後の魔法を教えてやってくれ。王家の名は語れないが知識だけは与えてやりたいのだ。」
「良いのですか・・・召喚魔法を教えれば・・・皇子が勝てる見込みはゼロ・・・あなた様にとってはよろしくないでしょう・・・皇子が負けてしまうなど」
どこからともなく真っ黒なローブを着た存在感バリバリの人物が登場する。
この部屋に最初からいたのだが、ライトは気付いていなかっただろう。
この人物は王宮専門の魔術師だ。王国の未来を予知したり助言したりするのがこやつの本来の仕事であった。
男だか女だか判別が出来ないように声を変えているが歳は若くないように感じられる
「あの子は私が育てたのです。魔法に関してのすべてを・・・あの子に教え込んだ・・・敵しかいないこの世界で生きていけるように・・・」
悪魔の子として地下牢に閉じ込めたが、世話をする役目だった者達は次々とダークの姿を見て逃げ出した。
困っていた際に名乗りを上げたのが魔術師として在中していたラグである。
王国の仕事の合間を縫ってダークに知識を与えていたのだ
「お前には感謝している。コレがあの子たちにとって最良の策なのだろう?ラグ」
「・・・そう・・・これがダークにとって最善の道。・・・あの子に現状を教えるとしよう」
静かに呟いたラグは国王の前からスッと姿を消した