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共に生きると決めたようです。

『あなたを愛しているわ、アーファルト。だから一人で死ぬなんて許さない。私が必ず一緒に死んであげるから、それまでは一人で生きてね』


 愛を語ったその口で、彼女はアーファルトに呪いを遺して封じられた。

 その時の彼女の笑顔を数百年が経った今もなおアーファルトは忘れられずにいる。

 彼女が遺した呪いにより死ぬ事が出来なくなったアーファルトは、魔族とも人とも関わりを断ち悠久に続く時間をただただ静かに過ごしていた。

 いつかきっと自分を終わらせてくれる存在が現れるだろうと、確信にも似た予感を抱きながら、過ぎ去る時をもう幾ら数えたか分からなくなって久しく。珍しく森が騒いだのでほんの気まぐれに出向いてみたその場所でリオに出会ったのだ。

 満身創痍でそれでも生きる事を諦めない、自分と対極に居る様な生命力に溢れた存在。

 あぁ彼女だ、と思ったのだ。

 アーファルトを終わらせてくれるのは、彼女なのだと。


「アーフ? どうしたの?」


 黙りこんでしまったアーファルトを心配したのか、リオが顔を覗き込む。

 朝焼けに照らされて輝くのは、出会った時から変わらない生命力に溢れた黒曜石の瞳。


「なぁ、リオ」


「なに?」


「……いや、なんでもない」


 出会ってまだ半年足らず。毎日顔を合わせていた訳でもないので共に過ごした時間はもっと短い。

 それでも、日々を必死に死んでなるものかと生きる彼女を見ていて分かった事がある。


「お前はきっと、俺を殺してはくれないのだろうな」


「えっ、嘘でしょアーフ。さっき言ってたのって本気なの?」


 ポツリと溢されたアーファルトの言葉にリオが顔をしかめる。

 絶対に嫌だ、と分かりやすく表したその表情にアーファルトは思わず声をたてて笑ってしまった。

 

 絶対に生き抜いてやると瀕死の状態でそれでも自分の命を諦めていなかった彼女はキラキラと輝いて。いつ死ねるのかと鬱々と自分の殻に閉じ籠って死んだように生きていたアーファルトの世界さえも照らした。

 そうして、リオにより照らし出された世界は、彼が自分で思っていたよりもずっと素晴らしく美しかった。

 あぁ、生きているのだと、アーファルトは強く感じたのだ。

 あぁ、まだ自分は生きていたいのだと。

 そう、だからもう、死にたいとは思わないのだ。


「今はもう、死にたいとは思っていない」


「そう? それなら良かった。命あっての物種って言うしね」


「なんだ、それは?」


「うん? なんだって生きてるからこそ出来るんだから、死んじゃったらもったいないって感じの言葉だよ」


「はは、もったいないか。あぁ、そうだな。もったいなかったな……」


 鬱々と死んだように生きていた間に世界は変わった。

 現状があまり思わしくない事をアーファルトは数百年経って漸く知ったのだ。

 ここから巻き返せるかも怪しい。

 それでも、もう少し生きるてみると決めたから醜くとも足掻いてみようと思うのだ。

 けれど、とアーファルトはリオに目をやる。

 自分の事に必死で、生きる事に必死で、それなのに色々と巻き込まれて、沢山の者達の思惑が交差するその渦中でそれでも、ただ大切な者達の為に進む事を決めた彼女を、アーファルトは自身の因縁にまで巻き込みたくはない。


「リオ」


「なに?」


「いつか、俺の因縁にお前を巻き込んでしまうかもしれない。その時は、」


「一緒に戦うよ」


 逃げてくれ、とアーファルトが言うよりも早くリオが応えた。


「え?」


「一緒に戦うよ。アーフが今、こうして一緒に来てくれたみたいに」


「……」


 大きく息を吸い込んで吐き出す。

 朝の澄んだ空気が肺を満たして、アーファルトは何故か少しだけ泣きたくなった。

 そうだ。彼女は、リオ・アキヅキという人物は()()()()()強いのだ。

 自分が一人で生きているのではないとよくよく分かっているからこそ、自分に出来る精一杯を返そうとする。

 逆境にあってなお強く、凛と立つ強さ。


「アーフ。一緒に、だよ」


「……あぁ、そうだなリオ」


 進む先が茨の道であったとしても、進み続けなければ道は無いのだ。

 ならば進もう。手を取り合って。困難さえも糧にして。共に。


 朝陽が昇る。

 今日が始まる。

 産まれ直したようだな、とアーファルトは笑った。

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