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同行者が増えました。

「その人達も連れて行くのかな?」


「えっと……」


 ウィルサス様の言葉にチラリと自身の背後に目をやった。


 解呪の魔法により本来の姿を取り戻した合成生物(キメラ)の二人。

 私により、ニーシャとギールと名付けられたその二人が目を覚ましたのは、解呪の魔法をかけてから一時間程後だった。


 目を覚ました瞬間に飛び起きて警戒心も顕に低く唸り周りを威嚇したのはギールである。

 まるで本物の獅子を相手にしているかの様な迫力があったが、周りを見渡していた目が私を捉えた途端にピタリと止まり、ついでに唸り声も止まった。


「……あー、えっと、私の事分かるかな?」


 周囲からの、声をかけてみろという無言の圧力に呆気なく敗れた私が恐る恐る声をかければ、ピコピコと獣耳が可愛らしく動いた。

 モフモフしたい、という動物好きの本能を何とか押さえ込み、出来るだけ優しく見える笑顔で更に話しかける。


「あなた達がニギだった時に名前つけて、一応あなた達の主してたリオ・アキヅキなんだけどぉわ!?」


 私が名乗りきるとほぼ同時に、もはや体当たりと言っても過言ではない勢いでギールが突進してきた。

 突然の事に受け身を取れず、後ろに倒れそうになった私を支えたのはアーフだ。


「びっくりした……ありがとう、アーフ」


「あぁ。おい、気を付けろ。リオは人間だ。俺やお前達の様に丈夫には出来ていないのだからな」


「……」


 大きな体を折り曲げて、私の腰に縋る様に抱きついているギールへ、アーフが苦言を呈するが反応はない。それでも一応ちゃんと聞いてはいる様で、息が出来ない程に私の腰を締め付けていた腕からは僅かに力が抜けた。

 その事にほっと息をつき、ゴロゴロと喉を鳴らしながら自分の腹にグリグリと顔を押し付けて来るギールに苦笑を溢して、その黄金色の髪を撫でる。

 まるで(たてがみ)の様に少し長めのその髪は思ったよりもさわり心地がいい。ついでに髪と同色の毛を持つ耳も触らせて貰って私は思わず満面の笑みを浮かべた。

 モフモフフワフワ最高である。


 ギールに次いで目覚めたニーシャが彼と同様に私に抱き付き、流石に自分よりも体格のいい二人に抱き締められた私が音を上げた事でアーフとラピス達に引き剥がされた二人が、それならと私の後ろからそれぞれ服の端を掴む事で落ち着いて今に至る。


「二人はどうしたい?」


「リオ様と共に行きます」


 ニーシャの言葉にギールもしきりに頷き同意を示した。

 元々共に行く筈だった頭が二つある大きめの烏の魔物が、二人の合成生物(キメラ)になっただけだ。

 置いていくという選択肢は私の中に最初から存在していなかった。二人もそれを望んでいるのなら尚更である。


「えっと、そういう訳で、彼等も一緒に行きます」


「そっか」


 頷いたウィルサス様が手元にあったベルを鳴らす。

 チリン、と高く澄んだ音が二度、三度と鳴らされた数秒後には扉がノックされ、数人のメイドが部屋へと入って来た。


「彼等二人に合う旅用の服を大至急用意して。後は旅に必要な物を一式。よろしくね」


「かしこまりました」


 ウィルサス様の指示に頷いたメイド達が素早く私に引っ付いているニーシャとギールを取り囲む。


「さぁ、先ずは採寸から致しますので、お一人ずつこちらへ」


 スッと一人のメイドが指し示す先にはメジャーを持った別のメイドが数人。二人の、私の服を掴む力が強くなった。


「えっと……」


「え、あ、ちょっと……!?」


 私が困惑している間にあっという間にメイド達により私から引き離された二人が拒否する暇も与えられず採寸されていく。


「えっと、ウィルサス様、これはいったい……?」


「うん? いや、流石にあんな服とも言えない格好で旅に出す訳にはいかないからね。僕からの餞別だと思って。明日までには用意するように言っておくから、今日のところはここに泊まるといいよ。部屋を用意させよう。ハルマン嬢も準備を整えて明日の朝また来てくれるかい?」


「はい勿論です。ではリオ様、明日からよろしくお願いします」


「はい。……って、様はやめて下さい。呼び捨てでいいですよ。敬語もなしでお願いします」


「えっと、では、お言葉に甘えて……明日からよろしく、リオ。私も呼び捨てでいいわ。敬語も不要よ」


「わかった、ネイラ。よろしくね」


「ではウィルサス様、私はこれで失礼します」


 綺麗な礼をとって部屋を去ったネイラさんを見送れば、後ろから感嘆の声が上がった。

 そちらを見れば、採寸していたメイド達が瞳を輝かせてギールを見ていた。


「どうしたんだい? って、あれ、翼がなくなってるね」


「あ、本当だ」


 ギールの背にあった翼が無くなっている。

 好奇心に引っ張られる様にギールの元へ寄って行った私とウィルサス様にキョトンと二人を見ていたギールが何かを閃いた様にガォ、と一声鳴けば、彼の背中が一瞬淡く光り、光が修まるとそこに翼が生えていた。


「わぁ!」


「へぇ」


 感心した様に声を上げた私達にギールがもう一度ガォ、と鳴くと先程と同じように背中が淡く光り、そして今度は翼が無くなっていた。


「自由に出現させられるのか。凄いな」


「凄いねギール!」


 私達の言葉に得意気に胸を張ったギール。そんな彼等を笑顔で見守っていたニーシャがそういえば、と声をかけてきた。


「あの、リオ様」


「うん? なに? てか、様はいらないよ。呼び捨てでいいし敬語も不要だよ」


「いえ、そんな……私達は貴女に救われたのです。敬称も敬語も当然の事なのでお気になさらず」


「うーん、まぁ、ニーシャがいいならいいけど。それで、どうかした?」


「はい、あの、ギールなのですが、彼は言葉を話せないのです」


「え、言葉を? どこか悪いとか?」


「いえ、そういう訳ではないのですが、何と言うのでしょう……そうですね、"与えられなかった"のです」


「与えられなかった?」


 どういう事だと首を傾げた私に二人の話を聞いていたサーシャリアが簡単な事だ、と言葉を発した。


合成生物(キメラ)だと言うたじゃろう。つまりは、そやつ等はあらゆる生き物を繋ぎ合わせて造られておるのじゃ。当然、与えられたモノとそうでないモノがあるのだろう。ギールとかいうキメラは、人として言葉を発する機能を与えられなかったのだろう。その代わりに獣の声と言葉を与えられた。そんなところじゃろう?」


「はい、正しくその通りです。ただ、こちらが言っている事は理解しておますので、意思の疎通が全く出来ない訳ではありません。私は彼と結構な間同じ身体を共有していた為か、彼が何を言いたいのかある程度分かりますので、彼との会話は私を通して頂けるとスムーズにいくと思います。それをお伝えしたくて」


「分かった。ありがとうね」


 そこでちょうどタイミング良くギールの採寸の終わりが告げられ、どことなく草臥(くたび)れた様子のギールがフラフラと私に近寄りそのまま背後から覆い被さってゴロゴロと喉を鳴らした。

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