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魔族との対面を果たしました。

「悔しいか?」


「え?」


 ウィルサス様の案内で長い廊下を進んでいた私にアーフが不意に訊ねた。


「先程から難しい顔をして黙りこんでいるだろう。レイがお前に何も話していなかった事が悔しいのかと思ってな」


「うーん、悔しいってのもちょっとはあるけど、それよりもなんか納得したっていうか、府に落ちたというか……」


「納得した? 何にだ?」


「前にレイ様が『王に忠誠はない』って言った事があったんだよね」


 それは魔王討伐隊のメンバーに彼等が選ばれるだろうという話をした時の事だ。

 その時は聞き流した言葉に含まれる意味が、ここにきて初めて見えた。


「レイ様達は王様に忠誠があるって感じじゃなかったでしょう?」


「まぁな」


「レイ様に至っては第二王子派って分かったもう一人の上位魔法師の人ともあまり仲は良くなかったみたいだし」


「そうなのか?」


「うん。お城に居た時にその人がレイ様に突っかかってるのを何回か見たことがある。仲が良くなかったっていうより、あっちが一方的にレイ様を目の敵にしてた感じかな。レイ様は特に気にしてなかったみたいだし」


 だからこそ、相手は余計に腹を立てていたのだろうな、と嘆息する。

 

「女神様からの勧誘も全部断ってるって言ってたし、立場的に大丈夫なのかなぁとは思ってたけど、深く聞くことはなかったし」


 レイ様が厄介事に私を関わらせない為にと事情を黙っていた様に、私もまた、自分が関わるべき事ではないと深く聞くことはなかった。

 お互いがお互いに配慮した結果の結末が今である。

 なんだかなぁ、と苦笑した。物事は常にままならないモノである。


「レイ様達の忠誠心が向けられていたのはウィルサス様だったんだ。納得したっていうのはそれ」


 私の言葉にアーフも頷く。しかし、そこでふとアーフは首を傾げた。


「お前は僅かな間だが城に居たのだろう? レイ達から話されなくとも、ウィルサスの事などは耳にしなかったのか?」


「あー、それは私も思ったんだけどね、どれだけ思い返してみてもウィルサス様の名前も、第一王子の話も全く聞いた事がないんだよね。どう思う?」


「どうもこうも、レイによって情報が徹底的に遮断されていたんだろうな」


「だよね。レイ様恐るべし」


 呟いた私にアーフが苦笑を返した。


 そうして、長い廊下を進み、地下へと続く階段を下り、地下牢へ続く扉の前まで来たところでウィルサス様が私達を振り返る。


「さて、この先に魔族達が居るんだけれど、僕は一応エミュリルから彼等が君達を道案内するための手助けをしてくれと頼まれているんだよね」


 そこでね、とウィルサス様が笑った。


「相手は"吸血族"だから、どちらかの血を提供してあげたらいいんじゃないかな? 気に入れば協力してくれるかもしれないよ」


「……ち?」


「あぁ、なるほど」


 ウィルサス様の言葉に私達の反応は見事に違った。

 困惑のままに首を傾げて問う私と、理解したと頷くアーフ。


「なるほど?」


「"血"だ」


 互いに顔を見合わせた私達が相手の反応に突っ込みを入れる。


「あぁ、"血"ね。……いや、だから、なんで血? そもそも"吸血族"ってなに?」


「"吸血族"とは、他者の血を栄養源として生きる魔族の事だ。人間は"吸血鬼"とも呼んでいるな」


「吸血鬼! 本当に居るんだね。それで血を、って事か。だけど、気に入ればって?」


「あやつ等は気に入った血の者が現れた時、"血の契約"を交わしその者が死ぬまで他の者の血は飲まなくなる。それにお前が選ばれれば話は早いとい事だな」


「ふーん。って、私だけ? アーフも可能性として入れといてよ」


「いや、それは、」


 私の言葉に応えようとしたアーフを遮る形でキャッ、キャッとかん高い笑い声が扉の向こうから聞こえて来た。


「え、なに?」


「ふふ。彼等は少し耳がいいみたいでね、こんな扉一枚隔てただけの会話なら聞こえてしまうみたいなんだ」


 驚きに思わず顔がひきつった私にウィルサス様が穏やかな笑みを浮かべて言う。

 そして開かれた扉の向こう、五つある地下牢の一つに彼等は居た。


「人間の血の方が美味であるのに、魔族の血など好んで飲もうものか。呪われた元魔王ともなれば、尚更に飲みたくないのじゃ」


 幼い少女の声で言ったのは体長20センチ程の蝙蝠だ。


「……え?」


「なんじゃその呆けた顔は。妾の姿に何か文句でもあるのか?」


 パタパタと、鉄格子の向こう側で羽ばたいている一羽と、同じ牢の奥にあるベッドの柵にぶら下がっているもう一羽。合わせて二羽の蝙蝠がそこには居た。

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