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白薔薇の蕀姫とは彼女の事です。

「"白薔薇(しろばら)蕀姫(いびらひめ)"から手紙が来た時は半信半疑だったけど、こうして実際に僕を訪ねて君たちが来たって事は、手紙に書かれていたことは本当だと言うことなんだね」


「白薔薇の蕀姫?」


「なんだ、その妙な名前は?」


 私達の反応にウィルサス様は首を傾げた。


「あれ、知らない? エミュリルは(ちまた)ではそう呼ばれているんだよ」


「エミュさんがですか?」


「そうだよ。この国では女性の髪の長さで色々と意味合いがあるのは知っている?」


「はい。私もそれで最初色々と身に覚えのない同情を頂いたので」


 思わず自分の髪を触りながらため息を零してしまう。

 この世界に来た当初よりは長くなってはいるが、それでもこの世界の一般的な女性の髪の長さからすると短い私の髪。

 エミュさんの髪も私とそう変わらない長さであったが、その長さに意味があると知った身としてはそれについてわざわざ触れる事もしなかったのだ。

 だが、今ここでウィルサス様が髪の長さについて話題に上げたと言うことは、エミュさんの髪の長さには本来の意味合いよりは巷で呼ばれている名の方が深く関わっているのかもしれない。


「そう、肩くらいの長さの髪だと出戻りや未亡人って意味なんだけど、エミュリルはそのどちらでもないんだ。彼女はね、魔法師になった時に自分で髪を切ったんだよ」


「自分で、ですか? なんでまた……」


 身に覚えのない同情や奇異の視線は決して気持ちのいいものではなかった。

 それを自らの意思で浴びに行くなど考えられないと、思わず眉を寄せてしまう。


「うーん、まぁ、簡単に言ってしまえば、『貴族の(しがらみ)から解放されるため』だったんだよ。魔法師ってだけで自分の血統に取り込みたいと考える貴族は多く居るんだけど、エミュリルやレイファラスはそれに加えてインバース公爵家の実子で、養子に出された先も優秀な魔法師を数多く輩出しているカーハンナー侯爵家だったからね。彼等二人を自陣にと考える者は後を断たなかった。特にエミュリルは女性だからね。『貴族の子女は結婚してしかるべき』という古い考えのもと、彼女には魔法を学んでいる時から連日お見合い写真が届けられていたそうなんだ。で、それに嫌気が差したエミュリルは魔法師の試験に合格したその日に髪をバッサリと切って、誰とも結婚するつもりはないって事を物理的に証明してみせたんだよ」


 なんともまぁ思いきった事を、と感心してしまえる豪胆ぶりはエミュさんらしいと言えばらしかった。


「だから"白薔薇"なんですね」


「そう、"純潔"という意味と後はエミュリルの髪色とも合わせてつけられたんだろうね」


「"蕀姫"というのは?」


「それは単純に彼女の馬鹿力からきてるね。並の男だと太刀打ち出来ない魔法の才能と腕力。美しいけれど容易には近づけない存在。それが"白薔薇の蕀姫"、エミュリル・カーハンナーなんだよ」


 そう言って話を締めくくったウィルサス様が、側に控えていた従者から一通の手紙を受けとる。

 差出人の欄に『エミュリル・カーハンナー』と書かれていたのでエミュさんが出した速達便だろう。


「この手紙には君達がレイファラス達の安否を確かめに魔族の領土に行くから、ここに捕らえられている魔族達にその道案内をさせる為の手助けをしてやって欲しいと書かれているけれど、本当に行くのかい?」


「はい。自分の目で確かめたいので」


「そう。彼等の生死はこの国にとってとても重要な事だし、僕にとっても気になるところだからよろしく頼むよ」


「はい」


 しっかりと頷いた私に笑みを浮かべたウィルサス様がその笑顔のままに、けれど、と言葉を続けた。


「捕らえている魔族二人もこの国にとっては重要な情報源だからね。残念だけれど、無条件に君達をあの二人に会わせる訳にはいかないんだよ」


 ウィルサス様のその言葉に、やっぱり来た、と身構えた。

 何かしらの対価を要求される事くらい私も承知の上でここまで来たのだ。出来れば面倒くさくない事で、と祈りながらウィルサス様の次の言葉を待つ。


「そうだね、君達には僕の話を聞いて貰おうかな」


「うわぁ……」


 一番面倒くさいやつだ、と思わず顔にも声にも出てしまった私にウィルサス様はどこまでも笑顔だった。

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