表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/55

泣いてばかりもいられません。

 大通りに面した窓から夕陽が射し込んでいた。


「リオ。おい、リオ」


 自分の名を呼ぶ声に緩慢な動作で俯けていた顔を上げ、その声の主を見やる。

 エミュさんを見送ってどのくらい経ったのだろう?

 精悍なその顔に心配の色を浮かべたアーフがそこには居た。

 青色に色を変えた瞳が気遣わし気にこちらを見ている。彼もだいたいの話は聞いたのだろう。


「あぁ、アーフ……」


 呟いた瞬間に、ボロリと両目から涙が溢れた。

 そこからはもう、ダメだった。堰を切ったように涙と感情が溢れ出して止まらなくなってしまった。


「アーフ、アーフどうしよう。レイ様が、トニックさんが……皆が……ぶ、無事か分からないって、エミュさんが……沢山の魔族に囲まれてたって……し、死んじゃってたらどうしよぅ……」


 しゃくり上げながら泣き崩れた私にアーフが近寄って来る。


「リオ……バカか、お前は」


「へ? ……いったぁ!?」


 まさかの一言に思わず俯けていた顔を上げれば、スッと伸びてきたアーフの綺麗な指が私のおでこを弾いた。

 デコピンされた、と理解したのと、おでこから伝わった痛みに涙が引っ込んだのは同時だ。


「泣いてなんになる? それでレイ達は戻ってくるのか? 違うだろう」


「け、けど……」


「お前はレイ達が死ぬ所を見たのか? その死体の前で別れの言葉でも紡いだか?」


「違うけど」


「自らの目で見てもいないのに、何故勝手に悲観して諦めて泣く?」


「それは……」


「何を弱気になっている? レイ達の安否が知りたいなら自分で確かめに行けばいい。泣くにはまだ早いだろう。もし、お前が自ら確かめに行ったその先で、本当にレイ達が死んでいたのなら、その時に泣けばいい。その時は俺も慰めてやる。だが、今は違うだろう。絶望するのも、悲観に暮れるのもまだ早い。お前はまだ、何もしていないだろう」


「何もしてない……」


 アーフの言葉を反芻して飲み込む。

 そうだ。私はまだ何もしていない。

 ただ、エミュさんからの報告に勝手に諦めて嘆き悲しんだだけだ。


「エミュさんにもう一度会いに行って来るよ、アーフ。会って、レイ様達と別れた場所を聞いて、確かめに行くんだ」


 涙を拭って言えば、笑みを浮かべたアーフが手を差し出してくれる。


「付き合おう」


「ありがとう。転移魔法陣を使ってお城に入ろう。エミュさん達は魔法離宮に閉じ込められてるって言ってたから、そっちの方が近い。たぶん、"白の離宮"のどこかだと思う」


「城の人間にバレるのは面倒だな。ラピス達を連れて来るか。あいつ等は索敵能力に長けているからな」


「そうだね。なら一度家に帰ろう」


 嘆き悲しむだけなら何時でも出来る。

 けど、まだだ。まだその時じゃない。

 自分の目で見て確かめてからじゃないといけないのだ。


 だって、私の師匠達は立ち止まって受け身になる事を許してくれる程に甘く、優しくはないから。

 きっと彼等がここに居たら私は怒られている。

 『何をやっているんだ』と、呆れた顔で言われて、そうして私が立ち上がるのを待ってくれるのだろう。

 そうしてくれる彼等は今ここには居ないけれど、それでも不甲斐ない私を怒って、奮い立たせてくれる存在が居る。私が立ち上がる為に手を差し出してくれる存在が居る。だから私は立ち上がって歩き出す事が出来る。


「行こうアーフ。夜の内に行った方が人目につきにくい」


「腹拵えと、後、少しでもいいから寝ておけ。夜更けに行った方がいいだろう。まだ時間はある」


「分かった」


 ワンザルトさんに挨拶して大衆食堂を出る。

 先程までオレンジ色をしていた空にはもう既に一番星が輝いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ