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疑問が生まれました。

 転移魔法陣は通常、二つの場所を行き来する事にしか使えない。

 分かりやすく言えば、A地点とB地点との行き来しか出来ないのである。

 けれど、元魔王なアーフがレイ様が(正確にはその補佐官のアラミーさんが)魔法離宮と私の小屋を行き来する為に描いた魔法陣に手を加えてくれたお陰で、私の小屋にある転移魔法陣はC地点にも行ける様になってしまったのだ。

 

 まとめると、魔法離宮にあるレイ様達が私の小屋に来るのに使っている転移魔法陣がA地点。

 これはB地点である私の小屋にだけ転移出来る。

 そして、私の小屋にある転移魔法陣はA地点である魔法離宮とC地点である王都に転移できるのである。

 ただ、このC地点が問題であった。

 普通、転移魔法は魔法陣ありきでのモノである。

 上記した通り、二つの魔法陣を行き来するのが転移魔法だからだ。

 けれど、何をどうやったかもう一つの転移先を作ってしまったアーフ。

 魔法離宮と王都のどちらに行くかは行き先を心の中で思えばいいだけだから間違う事はないのだけれど、如何せん、王都の方には魔法陣がない状態である。

 転移先に魔法陣がないとどうなるかというと、ランダムで適当な場所に落とされるのである。

 初めて王都に転移した時、昼食中の家族の真ん中に落とされてレイ様とトニックさんが有らん限りの権力と財力を使って無かった事にしたのはいい思い出だ。

 それからレイ様がそりゃもう必死に王都用の魔法陣を仕上げた。

 何せ前例のない初めての事例である。

 他の二つの魔法陣と全く同じモノを描いてもダメ、アーフに同じように手を加えて貰ってもダメ、何がダメか分からないけど兎に角ダメ。

 そうしてもう、レイ様の目がとうとう据わって来た時にやっと出来上がった魔法陣。

 何故出来たのか分からないと描き上げた本人も言っているので、その詳しい仕組みや理論は分からず仕舞いだけれど、取り敢えず出来たのならいいと、レイ様が王都の中心から少し離れた場所に借りた部屋に置かれている。


 さて、何故私がこんな事をツラツラと説明しているのかと言うと、私達が小屋に帰る為に必要な魔法陣が置かれている部屋が、どうやら魔族が現れたらしい方向にあるからだ。


「魔族って……何で王都に?」


 魔族に占領された領土に接する領土線から王都までは大分離れているし、そもそも魔族が領土内に侵入して来ない様にその領土線沿いには幾つもの城塞があり、戦線先駆隊の人達が昼夜問わず見回りをしている筈なのだ。


「転移魔法を使ったとか?」


「そんなモノ使わずとも、従属した魔物の力を借りればいいだけだろう」


「……え?」


「魔族は人間よりも魔物とは友好的だ。当然、従属させているモノも多い。移動手段としても、戦力としても有益だからな」


「……つまり、従属している魔物に力を借りてここまで来たと」


「ああ」


「なんで?」


「さぁな。聞きに行くか?」


「いや、いい。帰ろう」


 裏道を通って行ったら魔族と会う事もないだろう、と今居る道から逸れる。


「なんだ、いいのか?」


「いいよ。関わりたくないし。面倒そうだし。そもそも、魔族とお友だちになりたい訳じゃないから、わざわざ会う必要もないでしょ」


 明らかに厄介事だと分かる案件に自ら首を突っ込んで行くのはバカのする事だ。

 関わらないでいい事には極力関わらずに生きて行きたいではないか。


「こんな面倒事に自分から進んで関わる人はそれこそ物語の主人公とかだけよ」


 そう、例えば、女神として喚ばれた彼女(美坂さん)とか。

 視界の端に移った、先程まで私達が歩いていた道を騎士の人達と駆ける美坂さん。

 女神様は大変そうだ。

 

「あ、でもアーフ、あなたはいいの?」


 魔族である彼は、同種の者が人間に追いかけられるのをただ見ているだけなのだろうかと思い問えば肩を竦められた。愚問だったようだ。


「お前と同じさ。わざわざ面倒事に自ら首を突っ込んで行く必要などない。それに、これで捕らえられる様な者ならば初めから人間の土地になど来なければいいだけだ。それをわざわざ出向いて来たのなら、相当な実力者か、ただのバカか……どちらにしろ俺には関係ないな」


「そう」


 頷いて先を急ぐ。

 魔法陣が置かれている部屋まで後少しだ。

 住民達は既に逃げた後なのだろう、人気のない道を小走りで移動しながら、ふと思った。


「魔物の力を借りてここまで来られるんだったら、領土線とか意味ないんじゃ……?」


「見ろ、リオ。どうやらあいつの様だぞ」


「え?」


 浮かんだ疑問はアーフの言葉に掻き消えた。

 促されるまま見上げた空に大きな影が射した。


「……ドラゴン?」


 深緑色の鱗に覆われた、巨大な生き物。

 その姿は物語の中とかで良く見るドラゴンそのままであった。

 そして、その背に乗る外套を目深に被った一人の人。

 バサリ、と一回羽ばたいただけで遥か上空に昇ってしまった彼等に地上から魔法やら矢が飛んで行くが当たる訳がない。

 一度だけグルリと旋回したドラゴンはそのまま飛び去った。


「本当に何で……」


 先程の疑問が再び浮かぶ。

 何故、彼等(魔族)は空を飛ぶ翼を持っているのに地を行き、わざわざ少しずつ人間の領土を奪うのか。


「何事にも表と裏があるものだ。今回の領土争いにももしかしたら何かあるのかもしれないな」


「表と裏……」


 何が目的で来たのか分からない魔族。

 けれど彼は確かにここに来れたのだ。

 たった一人で、人間の王が居る王都(ここ)まで。

 

「……取り敢えず帰ろうか」


 考えても仕方ない。

 私が何かに気付いたとして、それをレイ様やトニックさんに伝えたとして、それでも何も変わらない。

 彼等は戦いに行ってしまうし、私はそんな彼等を見送るしかないのだ。

 それならば、今私が出来る事をする方がずっと有意義ではないか。

 取り敢えず小屋に帰って夕飯を作る事が今の私が出来る事である。

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