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試練は次から次へと来てくれます。

 鼻を掠める香ばしく甘い匂い。


「よし!」


 上手く焼き上がった大量のクッキーを前にリオは満足そうに笑った。


 コンコンと叩かれた窓を見れば、頭が2つあるカラスが急かす様にその嘴で窓をつつく。


「はいはい、今行くから待ってて」


 そんなカラスに苦笑を返してリオはクッキーが山積みになった大皿を手に外に出た。


「お待たせしました!」


 扉を開け放ち外に出れば、そこには沢山の異形のモノ達。

 異形のモノ……俗に言う"魔物"である。

 そんな彼等はクッキーの乗った大皿を手にしたリオを見るや喜色満面で騒ぎだす。


「後もう二皿分あるからちょっと待っててね」


 魔物達の前に持っていた大皿を置いて中に戻り、同じ様にクッキーの山積みになったお皿を持って出てくるという作業を2回繰り返してリオはよし、と頷いた。


「どうぞ召し上がれ!」


 その言葉を皮切りに一斉にクッキーへと群がる魔物達。


 リオ発案のクッキーでの魔物達の餌付けは成功だった。

 大成功だった。


 餌付けを始めて3日でクッキーの材料が足りない、と一言呟けば瞬く間に沢山の食材が集まり、その中のクッキー作りに関係ない食材でリオの食事が(まかな)われる位には大成功だった。

更に言えば、先程の頭が2つあるカラスや数匹のウルフ、ウサギに似た魔物達が住み着く程に予想以上の大成功であった。


 そうやって"獣牙の森"で暮らし始めて早いもので2週間。

 どういう訳かアーファルトと名乗ったあの男も2日から3日の間隔でリオの住む小屋に訪れている。


 彼は、その名前以外は何とも分からない人物だった。


 何処から来ているのかと問えば近くの村からだと言われたが、果たしてこんな危険な森の近くに人が住む様な村があっただろうかと、城に居た間に詰め込んだこの世界の地図を思い浮かべても当てはまる村などない。

 その事を伝えれば、地図に載らない位に小さな村だと言われた。


 何を生業にしているのかと問えば、"自由業"だと言われた。

 こんな危険な森に単身で来れる程の実力者の"自由業"とはいかなるモノか。

 騎士か傭兵かと問えば、それには否と返された。


 魔物達が彼に対して一切危害を加えないのは何故かと問えば、"そういうもの"だからと言われた。

 全く答になっていないが、その問いに関してはそれ以上聞いてくれるなと雰囲気が語っていたので諦めた。


 結局、彼に対しての問いは答えになっていない答えで全て返されたので、1週間も経つ頃にはまぁいっかと開き直ったものである。

 彼が来ても何ら不都合はないし、寧ろ話し相手には丁度いい。

 彼が来る度に持って来てくれる食材は森では手に入らない物であったり、たまに本や雑貨などといった生活の糧になるものを持って来てくれるので有り難い位だ。


 そうして魔物達とも何とか上手くやっていける様になった私は今日、ふと思い出した事があった。


 レイ様がくれた魔法陣、どこやったかな……?


「うーん、私の部屋には無かったから此処にあると思うんだけどなぁ……」


「何をやっている?」


 ガサゴソと物置の中をあさっていれば背後から怪訝そうな声が掛けられる。


「あぁ、アーフいらっしゃい。いやね、お城を出る時に師匠の上位魔法師様から貰った魔法陣があった筈なんだけど、それ何処にやったかなぁって思って」


「あぁ、これの事か?」


「うん、それの事。……うん?」


 アーフの言葉に彼を振り向けば、ヒラヒラと私が探していた紙を手に持って振っていた。


「え、何でアーフが持ってんの!?」


「お前の荷物を運んだのは俺だぞ? 得体の知れない人間が得体の知れない魔法陣を持っていたら預かるに決まってるだろ」


「……」


 得体の知れない人間と同じベッドで爆睡してたのはどういう了見だ、とか、魔法陣の前に武器を取り上げろよ、とか、色々ツッコミたいけれどまぁそれは置いておこう。


 取り合えず、


「それ、何も弄ってないよね……?」


「……さぁな」


「弄ってないよねー!?」


 レイ様から頂いた物なのだ。

 あのレイ様から頂いた物なのだ。

 下手に弄くったと知られればどうなるか……


 必死の形相の私にアーフは楽しそうに笑って魔法陣の描かれた紙を渡して来た。


「魔法陣何て描ける者自体少ない。そうそう弄くれる物ではないさ」


「あぁ、そうだよね、よかった」


「向こうと此方を行き来出来るという魔法陣だったから、此方からは王都に移転出来る様にしておいた。やったのはそれくらいだ。流石に俺もそれ以上の機能は追加出来なかったな」


「アーフさーん!!」


 もうやだこの人。

 交流を深める内に分かったけど、この人も中々にチートだった。

 見ていろ、と苦もなく最大上級の魔法を使われた時は軽く目眩を覚えたものだ。


 イケメンで強いのがこの国のテンプレなのだろうか……?


「安心しろ。これを描いた奴にすら分からない位小さな変化だ。お前が口を滑らさない限り大丈夫だろう」


 完全に他人事といった感じでアーフさんが魔法陣を手渡してくる。


「もぅ本当、勘弁してよね」


 受け取った魔法陣を床に広げて改めて眺めやる。

 大きな二重線を元に複雑な文字やら記号やらが描かれているソレは私には何が何だかさっぱりだ。


「アーフ、さっきこれの事"向こうと此方を行き来出来る魔法陣"って言ってたよね?」


「あぁ」


「と言う事は、」


 もしかして、と言う前に魔法陣が輝きだす。


「……」


「……」


光り輝く魔法陣の中に2つの人影が見えた。


「「リオ!!!!」」


「ヒィィ!!」


 思わず情けない声を上げてしまったけれど許して欲しい。

 光の収まった魔法陣の上には、鬼の形相のスパルタ教官方がいらっしゃったのだから。

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