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クルトゥース 〜碧槍の帝〜  作者: 高田玄武
4/5

〜深きものども〜 前編

それが、彼女にとってみれば運が良かったのか悪かったのかは解らないが。

だが、有り得てしまった。ギリギリのラインで日常を保っていた彼女の人生は結局、その存在によって幕を下ろした。―――いや、本当はすでに、次の幕はとっくに上がっていたのかもしれないが―――。


‐1‐


俺たちは相変わらずな毎日を送っていた。夏休みに入り、あれ以来何事もなかったかのように出現しない断片の欠片に若干の肩透かしを食らいながらも、なんとなく長期休暇を平和に過ごしていた。時折、イァクのヤツがなにやら妙な食品なのかジョークアイテムなのか分からないような代物をどこからか手に入れてきては俺に食わせようとしたり(本人は美味いと思っているのだから、悪気は無いんだろう)、唐木さんは相変わらず飽きもせずシュールなタイトルの書籍を読み漁りつつイァクをからかって遊んでみたり(いや、もしかしたらこれも悪気はないのかもしれないが)、まぁなんというか、すでに当たり前と化した日常をのんびりと過ごしていたわけである。

そんな、もう夏休みも中盤に差し掛かったある日―――。


「あきらあきらあきらあきらーーーーーーーーーっっっ!!!!」


...もう、毎度お馴染みとなってしまったお子様イァクが騒々しく俺を呼ぶ声。...ったく、今度はなんだ?ゴッド味覚(命名、俺)には付き合えんぞ?


「―――あきらぁっ!!これ見てよこれっ!!」


これも毎度のことであるが、イァクは何やら大事のように何かを俺に見せる。まるで鼠を捕ってきた猫の如く。


「...んあ〜?なんだってんだよまったく...。」


イァクが差し出したものは、俺の予想に反して、意外な代物だった。


「...なんだ?四名様、ご招待...?」


「...っふっふっふ...どうどうっ!?すごいでしょ〜っ!?商店街の福引きで当たったのよーーーっ!?」


それは、『南の島探険ツアー!三泊四日、四名様無料ご招待券!』なんていうアリガチなタイトルで括られた、チケットだった。


「ほほぅ...。」


「ねっ?ねっ?すごいでしょ?しかもこれ、一発で当てたんだよ!?誉めて誉めてーーー!?」


...『南の島』なんて微妙なタイトルが気にはなったが、場所がなんであれタダで旅行が出来るなんて話は確かにオイシイ。俺は、珍しくまともなニュースを持ってきたイァクを誉めてやることにする。


「―――ふむ。―――でかしたイァクっ!お前はやれば出来る子だと信じていたぞっ!?」


「―――えっへへー♪」


言いながら頭を撫でてやるとお子様はご満悦の表情。...どうでもいいが、最近ますます猫化してきてるぞお前。


「それはそうと、これ四名様って書いてあるが、俺とお前、唐木さんと...あと一人はどうするんだ?」


「うーん...別に三人でもいいんじゃないの?他に連れてくようなの、居る?」


...いやまぁ、居ないことも無いんだが...。


「―――唐木さんは行くだろ?誰か、他にいない?友達とか。」


そういや、唐木さんに俺以外の友人が居るって話、聞いたことないな。...まぁ、あれだしなぁ...。クラスでも多分あの様子に違いない。


「...連れて行っていいなら...居ないことも、無い。」


―――マジでか?

その瞬間、俺の興味は旅の内容よりも、唐木さんの友達のほうに引かれた。この黙殺娘とまともに会話出来る人間が他に居たとは...多分、俺はそいつと気が合うに違いない。...いや、待てよ?もしかしたら唐木さんにそっくりで、二人してひたすら読書ばかりしてるような間柄なのかもしれん。そこに会話は不要だよな...。


などと勝手な想像を色々としているうちに、唐木さんはイァクに引っ張られて買い物に出かけたり、俺は俺で先に夏休みの課題を仕上げちまおうなどと考えて机に向かったりしているうちに何日か経ち、あっという間に旅行の当日がやってきた。


‐2‐


「―――とまぁそういうわけで空港にやってきたわけだが―――。」


俺は隣でなにやらゴソゴソと嬉しそうに荷物を漁るイァクに―――


「―――なんだその大掛りな荷物はっ!?」


「―――え?」


イァクが手にしていたのは大きなボストンバッグに、これまたデカイ、リュックサック。更に手には紙袋が二つ。


「たかが三泊四日の旅行に何故そんなに荷物が必要なのかっ!?」


「だって南の島よっ!?何があるかわかんないじゃん!!」


何かったって...大体、『裁定者』のイァクに必要な何かって、ナンだ?着替えはともかくとして―――まさかっ!?


「...お前、もしかして中に...お菓子やらなにやら詰め込んでんじゃないだろうな?」


「―――そうよ?だって、もし遭難でもしたらしばらく食べられなくなっちゃうじゃない?」


...あぁ、頭痛い。

呆れたが、言うだけ無駄なのは必要以上に解っている。...とりあえず見なかったことにしておこう。


「...それにしても、唐木さん遅いな...。」


例の友人とは、駅で待ち合わせをしているらしい。俺たちは先にバスで空港まで来た。俺たちが着いてからもう三十分ほど過ぎる。そろそろ来てもいい頃なのだが...。


「...ごめん、遅くなった。」


現れたのは、唐木さん。そしてその後ろには―――


「ご、ごめんなさいっ!!私の支度が手間取っちゃいまして―――遅れちゃったんです!その、あの―――ごめんなさいっ!」


何やら、ペコペコと頭を下げるポニーテールの少女が。...どうやら、想像と違い結構まともな子らしい。


「―――あ〜、そんなに待ったわけじゃないし、第一無理に誘ったのはこっちなんだしさ。気にしないで?ね?」


「―――い、いえっ!こちらこそ、このような場にお誘い頂いて誠に恐悦至極というか、あの、えと、あ、ありがとござました!!」


...前言撤回。何やらやはり、テンパり加減に若干不安が残る。...まぁ悪い子じゃなさそうだけどさ。


「あはは...俺は向井明。こっちはイァク―――」


―――とまで紹介して、一瞬考えた。...どう見てもこいつは日本人じゃないよな。深く突っ込まれたらどうしよう。―――インドネシアからの留学生とでも―――


「は、はいっ!イァクさんが福引きでチケットを当てたんですよね?―――この度はお招き頂きありがとうございます!」


―――要らぬ心配だったようだ。彼女は、何の疑心もなくイァクに頭を下げて挨拶している。...もしかして、この世でこんな細かいことを気にするのは俺だけなのかもしれんと、本気で疑うようになってきた。


「―――私、藤堂遥って言います。よろしくお願いしますね!」


―――とまぁそんなわけで俺たちの乗る飛行機が到着して、出発できたわけである。...途中、イァクの荷物が全部乗らなかったり、藤堂さんの荷物が何故かチェックで止められたりと、まぁ多少のハプニングはあったが。...なんとか無事に出発できただけでもよしとしよう。


‐3‐


―――白い雲。照りつける太陽。そして、テレビでしか見たことのなかったような原色のハイテンションな植物たち。

航空機に乗って、たった二時間足らず。俺たちは、南の島、『三重山島』に到着していた。


「―――ウミうみ海ぃ〜〜〜〜〜っ!!!」


イァクは到着後、荷物をバンガローに置くと、さっさと水着に着替えて飛び出して行ったようだ。...まぁ、今ばかりはイァクがハイテンションになる気持ちもわからいでもない。南国的な雰囲気は、こうなんというか、それだけで妙にテンションを引き上げてくれる。商店街の福引きらしく、宿泊施設は簡素なバンガローだったが、まぁその辺りは大して気にもならん。これで逆に豪華なホテルだったりした暁には、何か裏がありそうで余計恐い。

...あー、しかし、なんだ。なんでこういうことになるのか。


「えぇっ!?部屋、一つなんですかっ!!??」


...そう、俺たちが泊まる為の宿泊施設には、部屋が一つ。...いわゆる、家族部屋というやつなのだ。...まぁ、四名様という人数設定で、それが「一般家庭」をターゲットとしたツアーだと気付くべきではあったのだが...。


「―――あー、心配しなくていいよ、藤堂さん。俺、ちょっと一人部屋が空いてないか管理の人に聞いてくる。多分俺一人くらいならなんとかなるだろ。」


多少、懐に痛いが仕方ない。まぁバンガローを借りるくらいの金額ならどうとでもなる。

イァクと唐木さんだけならともかく、藤堂さんも一緒となると四人部屋に男である俺が泊まるわけにもいくまい。そこらへん、藤堂さんに関しては常識が通用するみたいだ。...よかった、一応今のところ俺は一般常識を間違えてはいなかったらしい。...正直、最近は自信がなかったからな...。

そんなことを考えつつ、管理室へと赴いたのだが...。


「...満室、ですか...。」


結局、部屋は空いてないらしく、どうしようもなくて帰ってきたのである。


「あ、でも俺泊まるとこは見つけたから。ほら、あそこに食堂あるだろ?あの店、夏の間は夜中も開けてるらしいんだ。だから俺、夜はあそこに泊まるよ。事情を話したらそこのおばさんも快く承諾してくれたし。」


これは事実だ。なんなら夏の間ずっと居ろと引き止められたほどである。...さすがにそれは丁重にお断わりしたが。


「―――っそ、そんないけませんですっ!いや、えと、私はその―――向井さんさえよろしければ―――。」


「―――え?いや、だってさすがに女の子ばかりの部屋に俺が泊まるわけには―――。」


「―――ダメなんですっ!!―――私のせいで向井さんに不自由な思いをさせないといけないなんて、そんな、せっかく誘って頂いたのに私、申し訳なさ過ぎて―――っ!」


...あぁ、確かにそうか。俺としては気を使ったつもりなんだが...確かにそれでは藤堂さんが気に病むことになってしまう。どうやらこの子は必要以上に気負う性格らしいし...。


「...分かった。じゃあ遠慮なく俺も泊まるけど...ほんとにイヤだったらちゃんと言ってくれな?さっきも言ったけど、あの食堂のおばさん、かなり良い人でさ、喜んで了承してくれたんだから。」


「―――は、はいっ!!ふ、ふつつかものですが、どうぞよろしくおねがしまっ―――っく!?」


...おいおい。

色々と突っ込むとこは山積みだが、俺たちはせっかくの南の島を、とりあえず心行くまで堪能することにした。


まずは海。さすが、南の島。空の青を映して透き通った海水はどこまでも、純粋に綺麗だった。

元気にはしゃぎ回るイァクと、普段よりも機敏な動きの唐木さん。落ち着きはないが、三人の中で見かけは一番大人っぽい藤堂さん。...よくよく考えてみると、外見的には三人とも甲乙付けがたいほどの美少女だ。

...俺はもしや、ものすげーシチュエーションを満喫しているのではなかろうか?...杉山、すまん!

しばらく、三人がはしゃぎ回る姿にほげーっと見とれてしまっていた俺だった。



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