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VS(ヴァーサス)!!  作者: 白露 雪音
VS 高等科編~闇の舞踏
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81 party 彼女からの便り








「快気祝いするぞーー!」


 突然教室に飛び込んできた千葉君が、これまた唐突に宣言した。

 教室にはすでに一日最後のホームルームを待つだけの状態でメンバー全員が揃っている。私は柳生先生が来るまでお昼に借りてきたアヴェリーを読み進めようと本を開いていた。私の嗜好を的確に捉えた木塚君の薦めだけあってアヴェリーは私に熱い高揚感を与えてくれる面白い物語だった。

 物語に浸っていたこともあって途中で現実に引き戻された私はムッとしてしまったが千葉君の『快気祝い』の単語にすぐさま不機嫌な顔を引っ込めた。

 快気祝いの対象に私が含まれていることにすぐ思い至ったからだ。


「今日の放課後全員、地下一階大ホールに集まるように!」

「体育祭の練習はー?」

「休み、休み。一日くらいへーきだろ。先輩達との合同練習も今日はねぇーし、おもいっきり楽しもうぜー」


 もともとお祭り好きなD組メンバーだ、そこまで言えばあっという間に教室内の温度は急上昇する。


「食べ物は持参?」

「いやいや、先生に頼んである。準備も給仕もメイドゴーレムがやってくれっからお前らは身一つで来い」

「やったー! なあなあ、カラオケとかはできんの?」

「できるぞー、大ホール貸切だから思いっきり歌えー」

「さながらコンサート!」

「ペンライト、ペンライトどこやったっけかな!?」


 彼らのはしゃぎようはいつ見ても尋常じゃないな。

 みんなの様子に苦笑しながらも私はのんびりと柳生先生が来るまでアヴェリーを読み進めるのだった。




 ホームルーム後、私は一ノ瀬君と黒霧と共に地下一階の大ホールに向かっていた。一ノ瀬君は鼻歌交じりだし、黒霧はそわそわとしていて落ち着かない。人見知りする彼もD組には馴染んできたのか千葉君達と行動することも多くなり、私の傍には居たり居なかったりする。良い傾向だが少し寂しい気がしてしまうのは私の我儘なんだろうな。

 こういう大勢での集まり行事は彼もまだ経験が浅いから落ち着かないんだろ。

 そういう私も内心はどういう風に振る舞うべきなのか分からなくて緊張している。快気祝いということは私と透明君が主役ということになるのか。はたまたあまり関係なく騒ぐだけなのか。


 ……うん、まあ後者の気がするしあまり気を揉む必要はないかも。


 最後の転送陣をくぐって地下一階に降りた私達はホールへと続く廊下を歩いていたのだが…………。


「……なにしてるんですか? 柳生先生」


 なぜか廊下の隅っこで体育座りで小さくなっている柳生先生を発見してしまった。ドスーンという重苦しい効果音を背負って膝を抱えて小刻みに震えている姿がなんだか怖い。

 一時間ほど前のホームルームの時はいつも通り明るく仕切っていたというのに一体どうしたというのか。


「よっしー先生? おーーい」


 一ノ瀬君が揺すってようやく柳生先生は顔を上げた。端整な顔立ちを歪ませて瞳には涙の滴が浮かび上がっている。どう見ても号泣した後だった。

 これにはさすがに私を含め一ノ瀬君と黒霧もぎょっとしてしまった。感情の起伏が激しい人ではあるけどこれほどまでに泣いている姿を見たのは初めてだ。


「ど、どどどどうしたんだよ先生!? なんかあったのかっ」

「――……一ノ瀬か……。ふはは――いいなぁーお前はいいよなぁ~花森と一緒でー、一日中べったりだもんなぁーこのリア充ヤロウがっ」


 わけが分からない。

 柳生先生は視界に一ノ瀬君を入れた後、すぐ後ろにいた私を見つけて恨みがましい目で一ノ瀬君を睨んだ。黒霧は眼中にないらしい。

 ゆら~りと屍が起き上がってくるような不気味さで立ち上がった柳生先生は混乱で唖然と突っ立っている私達に向かって携帯の画面を突き付けてきた。


「――これを見ろ!」


 促されて画面を覗き込めばそこには一人の美しい女性が映っていた。金糸の長い髪を一つにアップで纏め白の花飾りで頭上を華やかせ、すらりと細い四肢を純白のドレスが覆い、白の手袋をはめたその手にはブーケが握られていた。


「わあぁ、すごく綺麗な花嫁さんですね!」


 そう、これは紛れもなく花嫁さんだ。思わずその姿に一応女の子なので見惚れてしまったが、この写真を私達に見せる先生の意図が分からない。


「そうだろう、そうだろう、めちゃくちゃ美人だろう!?」

「金髪碧眼ってことは……外人さんですか?」

「そうだ、ルーマニア人だと言っていたな」

「で、よっしー先生が泣いてたのとこの美人花嫁さんとは一体どんな関係があんだよ。先生の彼女じゃねぇーよな? 結婚するなんて話、ぜんっぜん聞かないし」


 画像を眺めながら首を傾げて言った一ノ瀬君の台詞に先生は再び顔を歪ませてしまった。生徒の手前大泣きするわけにはいかなかったのか、意地で涙を堪えているように見える。


「……残念ながら俺の彼女じゃない。この人はな……坂上先生の彼女で六月の花嫁さんだ」

「ええ!? 坂上先生結婚するんですか!?」

「あー、そういやA組の奴らがそんなこと言ってたような」


 私はA組にそんな雑談をするような仲の人はいない(木塚君はA組だけどそんな話はしないし)から坂上先生の結婚話は初耳で驚いてしまった。黒霧は坂上先生自体を知らないので話題についていけず所在なさ気にしている。


「それで、これも見てくれ……」


 そう言うと先生は画像を切り替えた。これまた綺麗なウエディングドレスを着た同じ金髪の女性が映っている。また画像が切り替わって、同じ女性のウエディングドレス姿が。


「そしてこれが同時に送られてきたメールの内容だ」


『よっしー君、久方ぶりでいやがるな。日々、健勝で過ごしているだろうか? 私は毎日のようにウサギがウマい野山を駆けている。野生児並みに元気だゾ。師匠からお前は絶対嫁に行けないとか言われまくった私だがこのたび六月にソハヤと結婚することになったのはお前も知っていやがるだろう。そこでだ、色々試着はしてみたのだがどれがいいか決めあぐねている。ノデ、お前が決めやがれ。


追伸:狩りに綾を連れて行ってウサギをさばいたら泣かれた』



 読み終わってしばらくは口を開けなかった。なんというか想像以上にインパクトが強いメール内容だった。写真の金髪美人のイメージとは遠くかけ離れている。


「え、えーっと……なかなかアグレッシブな人ですね」

「そうだなー、授業中も俺が腹が減ったと呟こうものなら窓を開けてそこから飛んでいる鳥を撃ち落とそうとするような子だった」

「それはすげぇー」


 色々思い出したのか遠くを見つめる先生はどこか童心に返ったかのように朗らかに微笑んでいた。随分と和やかでいい思い出があったのだろう。しかしそれだとますます先生が泣いていた理由が分からないのだが。メールの内容からするにとてもおめでたいお話なのでは?

 と、私は一人ぐるぐる考えていたのだが一ノ瀬君だけは額に拳をこつんとつけて珍しく苦渋の表情を作った。


「……あー……察した」

「え!? なんでどうして!?」

「一ノ瀬勝に分かって僕が分からないなんて……」


 それなりに話についていこうと黒霧も考えていたようだが私と同じように思案顔だ。どうしても意味が分からずへの字に口を結んでいるとなぜか一ノ瀬君に頭をポンポン優しく叩かれた。


「まあ、花森にはまだ早い話かもな。黒霧も」

「む! なんかバカにしてない!?」

「してねぇーよ、花森はまだ真っ白なんだなぁと安心してたとこだ」

「バカにしてると思うんだけど!?」


 正直一ノ瀬君の言っている意味もよく分からなかったがなんだか腹が立ったので彼の脛を蹴ってやった。弁慶さんも涙目になる急所だ、さすがの一ノ瀬君も小さく悲鳴を上げた。


「こらこら喧嘩すんな。まぁ、俺が言いたいのはだな、花森」

「はい?」


 急激に柳生先生の声音が低くなった。携帯を持つ手が震えている。こちらを見る先生の顔は笑顔のはずなのにどうしてこんなに背中が寒くなるのか。

 本能的に身構えてしまった瞬間、先生は思いっきり携帯をぶんなげた。


「ウエディングドレスどれがいい? だと!? なんで俺に聞く!? それこそ彼氏――花婿に聞けよーーーー!!」


 ガシャコーーン!


 勢いよく放られた携帯は廊下にぶつかって滑るように遠くまで行ってしまった。良く響く廊下で叫び声を上げた為、先に来ていたD組のメンバーがなんだなんだとホールからこちらを覗いている。


 なんだなんだは、こっちの台詞なんだけど!


「せ、先生落ち着いて! 確かに聞く相手が違うかもしれないけどそこまで怒ることないんじゃ……」

「花森、よっしー先生は今、ふかーく傷ついてんだ叫ばせてやれ」


 ――っく! 何もかも悟ったような一ノ瀬君のドヤ顔がムカつく!



 それからはもう情緒不安定な柳生先生の呟きだが喚きだかよく分からない百面相に付き合わされることになった。心配してきたD組のメンバーに一ノ瀬君が経緯を説明すると実に九割のメンバーがその意味を理解したらしい。

 解せぬ。

 私の方が頭はいいはずなのに、どうして私に分からなくて彼らには分かるのか。


 むすっとしていると突然、千葉君に肩を叩かれた。


「なに?」

「いや……本当、すまない」


 だからなにが。怪訝に眉を顰めると、千葉君は憂い顔でそっと目尻に涙を浮かべて言った。


「お前らの快気祝いをする予定だったが、こうなった以上放っておくわけにもいかない。よっしー先生は俺らの大事な担任だからな。―――そうだろみんな!」

『おお!!』


 賛同し声を上げたメンバーのほとんどが目に光るものを溜めているのはなぜ。


「皆の者ーー今宵の集まりは『花森さんと透明君の快気祝い』から『柳生先生を慰める会』に変更だ!」


 私はおいてけぼりをくらったまま、前後不覚状態の柳生先生を胴上げみたいにホールに連れいていくD組メンバーの背をぼうっと見送ってしまった。

 別に自分の快気祝いが先生の慰める会になっても構いはしないんだけど。



 …………誰か、そろそろ私にも分かるように説明して欲しい。








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