6 番外 柳生 義経
番外編です。
新キャラ、柳生義経視点。
*Profil(注*高等科新3年生4月記録)
名前:柳生 義経 歳:17
誕生日:5月19日(牡牛座) A型
身長:184cm 体型:長身痩躯
属性:全 能力:できないことなどない
体力:計測不能
速さ:計測不能
賢さ:計測不能
魔力:計測不能
総合評価:SS
注意事項*能力の計測は計測器がすべて振り切った為、不能。アンチブレスレットも役に立たない為、要監視。
完全無欠とは、俺の事だ。
俺のことだったはずだ。
柳生 義経、十八歳(三月時点で)。
顔良し、家柄良し、両親とも魔法使いで俺も先天性魔法使い、父方の曾祖母両方とも魔法使い。レア中のレア。RPGでいえばラスボスなんて目じゃない創造神クラス。
学校ではもちろん超モテモテだった。
――――なのにっ!!
「やあ、よっしー。君、見事にフラれたんだって?」
「フラれてないっ! だってまだ俺、告ってないしっ!」
負け惜しみ、分かってるさ負け惜しみなのはっ!!
友人が、ふっと笑うのがとてつもなく悔しい。クラス中の奴らが生温かい目で見てくるのも悔しい。
俺が彼女と出会ったのは昨年の冬だ。珍しくも十五で魔法使いに覚醒した彼女は、高等科の俺と同じ二年B組に編入してきた。
金髪のボブカットで青い瞳をしていた。聞けば両親とも外国人で、育ての親が日本人だったらしく、変な日本語を喋ったが日本通で面白い子だった。
何より俺に対して全く媚びないし物怖じしない。
仲良くなるうちに、すっかり惚れ込んでしまっていた。しかし彼女は恋愛には少々淡泊で、興味もなさそうで、というよりもあまり感情を顔に出さない子だったから、俺の事をどう思ってるのかも分からなかった。
そうしてウダウダしている間に、彼女は良い人を見つけて、俺はそのデート現場を昨日目撃してしまったわけだ。
しかもその男は俺の親友でした。
どうしよう会いに行き辛い。お昼も一緒に食べてるのに。
俺は力なく机に突っ伏して、からかいに来た隣の席の友人に向かって声を上げた。
「山田君。傷心の俺の為に女子紹介して、金髪ボブで、魔法使いで無表情で恋愛に淡泊で両親とも外国人で日本人の育ての親を持つ日本通の面白い子」
「…………よっしー、あの子と同じ人間なんてこの世に一人としていないと俺は思う」
「………………………ですよねー」
その日の午前、俺はシクシク泣きながら授業を受けた。
授業を受け持った先生からそっと差し出されたハンカチに感激しすぎて、鼻水が溢れた。
鼻水滴っても俺は美少年。
その日の昼食は、気が重かった。
あの子は来なかったが、彼女の彼氏となった親友、坂上はいつも通りにお弁当を広げて食べている。俺はモソモソとお弁当を口に運ぶだけの動作を繰り返す。
……空気が重い、とか思ってるのは多分俺だけで、ニブちんな坂上はいつもの昼食だと思っているだろう。彼はいい意味でも悪い意味でも超絶マイペースだ。
こっそり溜息をついていると、いきなり休憩スペースであるホール内に弦楽器の音色が響き渡った。俺も坂上も含め、周囲の生徒達がなんだなんだと音の出どころを探す。
入口から行進しながら合奏していたのは、高等科の吹奏楽部だった。
彼らはなぜか俺達の近くのテーブルまでくると止まった。
…………なんか、すごく嫌な予感がした。
呆然と彼らを見ていると、彼らの後ろから見知った顔が現れる。
山田君だ。
彼はもう一人のクラスメイトの友人、林君と共に横断幕をばばーっと広げた。
横断幕には、でかでかと墨字で、
『フラれて傷心のよっしーへ、大丈夫さ次がある!!』
と書かれていた。
俺は衝撃のあまりゴンッとテーブルに頭を打ち付けた。
坂上は、まったく表情を変えずいつものマイペースさでこちらをちらりと見た。
「…………よっしー……フラれたの?」
うんともすんとも言えない。
俺が悶絶している間にも吹奏楽部の素晴らしい演奏が奏でられていく。
…………とても元気になるようなテンポの曲目だ。
でも俺はどんどん沈んでいく、テーブルにめり込む。
山田君と林君は二人でなぜかタンバリンを叩いていた。正直邪魔で仕方ない。
ひとしきり演奏を終えると聞いていた生徒達は素晴らしいと拍手を送る。
よかった、終わった。と、なんとか上半身を起こした俺だったが、またしても突如現れた集団に目が点になった。
止めてくれ、おいそいつら見覚えあるから! 演劇部だろっ!!
山田君と林君がドヤ顔するので、俺は慌てて山田君の襟首に掴みかかった。
「やめてええぇっ、お前らこれ以上なにする気だあぁぁっ!!」
「なんだ、よっしー、そんな涙目で」
「山田、悟れよ、よっしーは感激で泣いちまったのさ」
「ああ、そうか! 待ってろよ次は演劇部と吹奏楽部によるミュージカルが――」
「もういいから、俺のライフとっくにゼロだからあぁぁっ!」
恥ずかし過ぎて死にそうです。
坂上にも、ちゃんと理解しているかどうかは謎だがフラれたことはしっかり知られてしまったし。もはや周囲の好奇の視線だけで心臓止まる。
俺の必死の訴えにようやく諦めたのか、山田君と林君が手を打った。
「吹奏楽部と演劇部、あとエキストラの皆さんどうもお疲れさまでーす」
周囲にいて弁当を食べていた生徒達もぞろぞろと移動しだした。
中には俺の肩に手を置いて、元気出せよと言っていく者もいる。
え? は? こいつらも全員グルだったの!?
「せっかく皆よっしーの為に集まってくれたのに、よっしーてば照れ屋さんなんだから」
「なー」
励ましてくれるのはありがたい、だがお前ら空気ヨメ!!
俺がテーブルをバンバン叩いているのを見ながら、坂上はズズーっとパック牛乳を呑気に啜った。
そんな感じで俺の日々は、騒がしくも過ぎていく。
* * * * * * *
背筋がぞっとするような事件が起きたのはそれからまもなく三月六日の怖いくらいに空が晴れた日だった。
その日は降り続いた雪が嘘のように止み、久しぶりの太陽が出ていたが俺は朝から気分が悪かった。俺は祖父母から続く先天性魔法使い、とても澄んだ濃い魔力の持ち主だ。
だからだろうか、その先のことを俺は予感していたのかもしれない。
俺はいつもの高等科普通校舎のホールではなく、初等科特別校舎の傍にある憩いの広場で弁当を広げていた。
わざわざ自転車に乗って、高等科校舎から離れたここまで、一人で。
誰かと一緒にいてはいけない気がしたのだ。
周りには初等科の子供達が多くいて、高等科でしかも図体のデカイ俺にちょっとビビリながら弁当を食べている。
小さい子達に囲まれて弁当を食べる俺もいたたまれないが、どうしてもこの場所にいる必要があると思った。
俺の勘は当たるんだ。イヤになるほど。
弁当も食べ終わり、ブルーシートの上に寝転がる。下は芝生と雪で柔らかい。
しばらくゴロゴロしたが、妙な嫌な空気を感じて身を起こす。
チリチリと周囲に漂う自然魔力が震えている。
体が…………震えた。
怖い。久しぶりに感じた、俺より強い魔力の持ち主はそうそういないからそう思うことは滅多にないのに。
無意識だった。学校に張り巡らされている防御結界、それに強化魔法を付加させたのは。
ビュオッと一陣の風が吹く。
周囲の子供達は気が付かなかっただろう、この凍てつくほどの痛い魔力の流れを。
迫ってくる死の恐怖を。
俺は慌てて駆けだした、近くにいた子供を抱きかかえて、あらんかぎりの声で叫ぶ。
「逃げろおぉぉーーーー!!」
いきなりの叫びに驚く子供達だったが、次の瞬間、辺りが真っ白になった。
氷の結晶が満ちたのだと、俺だけが分かった。
それが晴れた時には、俺を含めその場にいた子供達が氷漬けとなり氷柱に閉じ込められた。
――――っくそ、動けねぇ!
意識だけはなんとか保った。だが全身が凍りつき、氷柱の中では口を動かすことすらできない。つまり詠唱ができない。
どうする、どうする。
感じた魔力は恐ろしいほどの殺傷性を持っていた。Sクラス保持者どころか上位クラス教師陣でさえ、手を出すのは危険に思えた。
子供達の救出が遅れれば遅れるほど、命とりになる。
心臓がバクバクした。今までに感じたことのない焦りが全身を駆け巡る。
ふと、先ほどまで荒れ狂っていた魔力が少しだけ大人しくなったのを感じ、訝しむと俺の視界に一人の少女が映った。
初等科女子の制服である白のセーラー服を身に纏った長い黒髪の女の子。
あんな子は広場にいなかった。ちゃんと確認してたんだ、間違いない。
ならなぜ、ここに来た!?
この魔力の持ち主であろう魔力暴走を起こしていると思われる少年が、どんどんその子に近づいていく。
――ちくしょう、止まれ、止まれっ!
念じたところで、なにか起こるわけもなく少年は少女に手を伸ばす。
その表情は驚くほど満ち足りていて……そして狂気に染まっていた。
案の定、俺が施した強化魔法すらもブチ破って、少年の荒れた魔力が少女の身を切り裂く。少女の頬から鮮血が滴り落ちた。
あのままだとあの子が死んじまう!
持てる力のすべてを出して俺は両手に力を込めた。詠唱なんざすっとばしてやる、俺をなめんなよっ!
身に宿る魔力すべてを集結させ、俺は俺を閉じ込める氷柱にブチ当てた。
氷柱は激しい音を立てて崩れ去る。その一瞬前、なぜかあの少年の魔力がぐらついた気がしたか、そんなことを気にしている余裕はなかった。
すぐさま、動くようになった口で詠唱を唱え、風を巻き起こす。
「逆巻けシルフ、あのクソガキ捕まえろ!」
詠唱というには、かなり粗雑だが魔法ってのは、ようはイメージを固められりゃいいんだ。天才の俺にはこれで事足りる。
猛然と駆けた風が少年を捕え、包み込む。
俺はそのままの足で少女の元へ走りながら、遠巻きにしている教師に怒鳴った。
「捕縛した! あのガキ早く確保してくれ!」
金縛りから溶けたように教師達は慌てふためきながら、少年の元へ行く。
氷柱に閉じ込められた子供達も俺が抱えていた子供も抱きかかえられて保健室へ運ばれていく。
その様子にようやく俺はほっと息をつき、少女の元へ辿り着いた。
少女は茫然自失で、俺の事が見えていないようだった。
「おい、大丈夫か? 怖かったな、今手当してやるから――」
みなまで言い終える前に、少女の体はグラリと傾ぎ俺は慌てて支えた。
少女の閉じられた両目からは後から後から、溢れるように涙が流れていった。
仲良しだったんだろうか。
後から俺はそう思い至った。
考えてみれば、俺が氷柱から脱出できたのは、あの少女に少年が動揺していたからだったように思える。
あの事件の後、あの子が登校したという話を聞いて初等科の校舎へ足を運んだ。
少女はいつも一人ぼっちで、友達がいないようだった。教室でも隅で大人しく静かに本を読んでいる。
その表情は……『無』。
俺が失恋した彼女も無表情でいることが多かったが、それとは違う。あの子のは完全な無だ。心で何かを感じることを止めてしまった。悲しい無だ。
俺はあの子のことが少し気になったが、その後すぐに行われた卒業式を経て、大学へ進学してしまったので、俺があの子に再会したのはそれから四年後、俺が新任教師で、あの子が新高等科一年になった春のことになる。