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VS(ヴァーサス)!!  作者: 白露 雪音
Escape 初等科~中等科編
10/101

9 番外 鈴木 太郎1

初等科五年、六年と李と同じクラス、しかも同日に編入してきた鈴木君視点のお話です。

*Profil(注*新5年生4月記録)

名前:鈴木(すずき) 太郎(たろう) 歳:10 

誕生日:10月21日(天秤座) B型

身長:145cm 体型:細身

属性:水  能力:水を操る  ミラージュ

体力:★★★★★☆☆☆☆☆

速さ:★★★★★☆☆☆☆☆

賢さ:★★★★★☆☆☆☆☆

魔力:★★★★★☆☆☆☆☆


総合評価:C


注意事項*特になし




 初等科の卒業式を迎えた。

 こんな日は、過去を振り返ってみたくなるものだ。

 僕は蛍の光を口パクで歌いながら、この学校に編入してきた去年の春を思い出す。




 編入する前の年の十月、川に落ちた弟を助けようと必死になって気が付いたら魔法使いになっていた僕は、その年、地元の学校を去って魔法使いのみが入ることを許される魔法学校『アルカディア』の予備学舎に入って四年分の知識と技術を叩きこまれた。

 勉強していて最初に驚いたのは、空飛ぶホウキがないことだった。ホウキで空を飛ぶ魔法使いを見たことがないのは、僕が田舎に住んでいるせいだと思っていたのだ。童話や漫画にはよくあるのに、なんでだろうと思ったら、昔に起こった魔法大戦で魔樹の大木が焼失してしまい、ホウキそのものが作れなくなったからだそうだ。

 普通の木では空飛ぶホウキは作れない。昔の人のバカ!

 一応、魔力を使って空中浮遊はできるようになるらしい。すごく難しい技術が必要みたいだけど、僕もいつか飛びたい。


 そんなことを考えつつ、なんとかかんとか、五年A組に編入できたのだった。

 僕の他にも一人、花森 李という女の子もいた。予備学舎に入った時期も一緒なら編入した日とクラスも一緒とかすごい偶然だ。


 だが別に嬉しくもなんともなかった。

 ……なんか暗そう。

 それが僕が彼女に抱いた第一印象だった。

 だってなんか目が死んでたから。



 鈴木 太郎という、今時珍しくもあまり記憶されない地味な名前のせいか、それとも僕の存在感があまりにもないからか、話しかけると驚かれるは、お前誰と聞かれるはで。

 でもまぁ、前の学校でも同じ感じだったので気にしない。

 一応初日から友達作りに励もうと活動したが、……全員が全員じゃないけどお高く留まってる奴も多くてげんなりした。

 ランクが俺より上だからなに。絶対、お前より僕の方が精神年齢上だよ。バーカ。


 それでもなんとかマシな奴を見つけて友達になった。それなりに毎日楽しくやってる。

 でも、ふと教室の隅を見ると暗い影を背負った花森さんの姿が映る。


 彼女は今日も一人で本を読んでいた。

 友達を作る気がないのか、内気で輪に入っていけないのか。


 …………前者な気がした。あれほどまでに近寄るなオーラ出してたら誰も話しかけてなんか来ない。現に数少ない女子が一人でいる花森さんに声をかけようとしてが、近づけずに退散していっている。



 一人が好きって奴も確かにいるし。その時は僕はあまり気にしないことにした。






 それから半年ほど過ぎた頃、僕は困っていた。

 お昼ご飯を食べようと広場に行ったら、落し物を拾ってしまったのだ。

 学年は分かる、書いてあったから。五年C組と。

 名前も書いてあったのだが……もう一度、落し物である楽譜を見る。


『五年C組 雹ノ目 朔良』


 なんとかメ……なんとかヨシ。

 さっぱり読めない! ふりがなふっとけよ、ふりがなを!


 しっかし、楽譜の落し物とかちょっとオシャレだな。しかもヴァイオリンとか坊ちゃんか。と勝手に決めつける。

 楽譜なら音楽室。と安易な考えで第一音楽室から第三音楽室まで旅をしてきたわけだが(なにせ第一~第三音楽室が別の校舎だ)、持ち主らしき人物が見つからずまたもや校舎を越えて第四音楽室を目指している。

 こっちの第二特別校舎は使用者が少ない為、僕は若干諦め気味で階段を上っていた。

 誰もいないでしょ、こんなトコ。

 無駄な教室が多すぎる。敷地も広大過ぎて迷子になる。どれくらい広大かというといくつかの山と川、湖が存在する。一つの町みたいなものだ。ここから高等科まで行くのに自転車が必要だったりするし(行く機会ないけど)。


 足取り重く階段を上がっていくと四階に差し掛かった所でヴァイオリンの音色が聞こえてきた。

 僕はツイてる。気分を向上させて五階に駆け上がると、はっきりとヴァイオリンの旋律が聞こえてきた。


 綺麗だ……だけどなんかこう……。


 音色に違和感を覚えたが、それがなんなのか分からず気のせいだと首を振った。

 五階には第四音楽室と第五音楽室がある。階段を挟んで反対方向にあるから音がする方に行けばいい。

 どうやら響いてきているのは第五音楽室の方のようだった。

 足先を第五音楽室へ向けた瞬間、音色が止んだ。練習終わったのかな、それならちょうどいいや、と歩き始める。が、第五音楽室が見えた所で僕は近くにあった掃除用具入れの影に咄嗟に身を隠してしまった。


 えーっと、あれは一体どういうことだ。



 掃除用具入れの影からこっそり窺えば、第五音楽室の前で初等科の女の子が顔を膝に埋めて丸くなっていた。その子を気遣うように男の子がしゃがんでいる。


 なんかとっても出て行き辛い雰囲気。楽譜の持ち主探さないといけないのに。


 どうしようかとちらちら二人を窺っていると男の子の方が女の子の頭を撫で始めた。


 え? なにこれ、なにこの感じ、もしかして僕デバガメ?

 見ちゃいけないものを見た気がして両手で両目を覆ったが、指の隙間から見えてしまった。決して好奇心に負けてとかじゃない、指に隙間が偶然あったからだ。


 頭を撫でられた女の子が勢いよく顔を上げて驚いた顔をしていた。

 あれ、あの子どっかで……あ! 花森さんか!

 無表情な顔しか見たことがなかったから、驚いた顔は新鮮だ。

 あんな顔もできたのか。



 しばらく観察していると、男の子が花森さんの隣に座った。

 二人は何を話すでもなく静かに座っているだけで、友達同士……には見えないけど。

 良い仲、にも見えない。良い雰囲気ではある気がするけど。



 …………どちらにせよ。


 カラーン、カラーン――――

 鳴り響く予鈴に、僕はお昼抜きを悟った。





 驚いたことに、楽譜の持ち主は第五音楽室で花森さんと良い感じだった男の子だった。

 名前はヒョウノメ サクラ。覚えたぞ。

 雹ノ目君は、眩しいくらいの絶世の美少年で最近まで両親について海外で演奏旅行をしていたそうだ。やっぱりボンボンだった。

 口数少ない、大人しい印象の子だったけどにじみ出る良い人オーラが僕は気に入った。

 気に入ったけど、



「あの……僕の楽譜わざわざ届けてくれたって聞いて……ありがとう、えっと田辺君……」

「…………鈴木だよ」



なぜか昔から名前を間違えられる。

鈴木なんて覚えやすい名前だと思うんだけどな……。



 昼休みに遊びにでも誘おうかとC組に行ってみたが何度行っても教室にはいなかった。休憩スペースもだいたい探したけど見つからない。


 なんか見つからないと見つけるまで探したくなる。

 僕はやっきになってお昼休み彼がどこに行っているのか捜索してみた。


 で、思い至ったのが第五音楽室。

 もしかして、と思ってこっそり行ってみたら案の定。雹ノ目君が第五音楽室に入っていくのを目撃した。

 話しかけようと扉の前まで来たのだが、足音が聞こえたので慌てて用具入れに飛び込んだ。用具入れには隙間がある。そこから覗くと前をお弁当箱を抱えた花森さんが通って行った。

 すぐに扉を開ける音と、雹ノ目君の声がしたから二人が第五音楽室にいるのは間違いない。


 僕は静かに用具入れから出ると、踵を返した。

 ここで割って入っていくとか野暮なマネはしませんよ。

 馬にけられて死ぬのは御免だ。




 その後も、花森さんはいつものように一人だったが、その表情は確かに生きていた。





 事件が起こったのは、三月六日。降り続いた雪が上がり、不気味なくらいに空が晴れ渡った日だった。

 僕はその日、友達と一緒に憩いの広場でお弁当を食べていた。

 なぜか高等科の図体のデカイ先輩がブルーシートを敷いて一人でお弁当を食べていたが、気にせず僕は僕でお昼を楽しんだ。


 異変が起きたのは、腹ごなしにゲームをして負けた僕が罰ゲームでジュースを買って戻って来る途中でのことだった。

 憩いの広場が真っ白に染まったのだ。

 全身に鳥肌が立った。体の震えが止まらず、抱えていたジュースを落としてしまう。

 瞬く間に、白い粉のようなものは無数の大きな氷柱に姿を変え、現れる。

 僕の目に、氷柱に閉じ込められた友人達の姿が映った。



「なにが……どうなって――」



 震える足を叩いて僕は走った。こんな荒れ狂うような魔力は感じたことがない。すごく怖かった。だけど氷漬けになってしまった友達を見たら、ただ突っ立っていることはできなくなっていた。



 先生達の叫び声で、これが魔力暴走によって引き起こされているのだと知る。友人達の元へ駆け寄ろうと思ったが、教師に掴まってしまった。



「おい、なんで初等科の子があんな所に出てくる!」

「なんで止めなかったんだ、死んでしまうぞっ」



 焦る声が茫然としている僕の耳に一枚膜を通したようなたわんだ音となって届いた。

 そして僕は見ることになる、魔力暴走を起こして人が変わったようになってしまった雹ノ目君と恐怖に支配された花森さんを。




 壊れるのって一瞬なんだな、と思った。

 一生懸命、一個一個、ゆっくり時間をかけて築き上げてきたのに、ただの一振りで壊れてしまう。



 雹ノ目君を失った花森さんは、まるで死人のようだった。











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