手を伸ばした本
俺の放課後は空白だ。
俺は何者にも捕らえられないし規制もされない、俺の放課後は自由なのだ。
と一見かっこいいことを考えるが、要するに俺はただの帰宅部なのである。
そんな帰宅部のエースである俺は先日借りた本を返すために俺の街にある図書館に向かっていた。
歴史の重みを感じさせるような重厚的な外観。そしてその外観からはあまり考えられないくらい内装は小奇麗で、古典本はもちろん今話題の書籍だったり若者に人気のライトノベルも置いてある。その外見と内面のギャップにどこか人間臭さを感じ、俺はこの図書館が好きだった。
ガラス張りで両側開きの図書館の扉をすこし乱雑に開け、女の司書さんに軽く会釈をし中に入る。
いつも通り借りた本を返却ボックスに入れ、これから借りる本の物色を始める。
俺が向かったのは外国作家の作品が並んである本棚。本好きではなくとも名前くらいは知っているような有名作品から新進気鋭の外国作家の小説まで所狭しと並んである。
俺はそこで一冊の本に手を伸ばす。
「んー……こういうのは苦手だけれどこの際借りてみようか」
俺が手に取った小説はフランツ・カフカの「変身」という小説で、二十世紀最高の小説化とも言われるカフカの代表作である。ある日主人公が突然虫に変わってしまうという内容の小説だ。とテレビで見た情報の受け売りを頭で反芻する俺。
俺は「変身」を小脇に抱え、そのまま司書さんに本を借りるための手続きをしてもらう。
「あら、今回は外国人作家なのね?」
朗らか、という表現が似合う司書さんは俺に微笑みかける。
「あ、はい、まあ…」
「この作品は色んな解釈が出来てねー」
「ああ、よ、読んでから……」
あっ、と少し申し訳無さそうにこちらを見る司書さん。
「そうね、まだ読んでないものね。はい、じゃあ返却来週になりまーす」
「ありがとうございます」
「変身」を手渡され、少し俯きながら足早に図書館の出口へと向かい、扉を開ける。
情けなさを胸に感じつつ、俺は今にも泣き出しそうな空の下帰路に着いた。