栞に込めた想い
この物語のプロローグみたいな感じです。この語り手は主人公ではありません(`・ω・´)
その人には、癖があった。
見抜いたのは完全な偶然であった――なんて言えば幾らかはその人と私の間に運命的な何かしらを感じることが出来るような気もするが、残念ながら偶然ではない。
――そう、一目惚れだ。
一目惚れをしてしまっていたのだ。
体が弱く入退院を繰り返し、医者にも外出は控えた方が良いといわれている私の唯一無二な安息の地である、街に一つしかない図書館にその人は現れたのだ。
正直、外見にはそれほどの魅力があるとは思えなかった。
少しだらしなく伸び、ぺたんとした髪型に知的な印象を与えさせる眼鏡。そしてそこそこ整っている容姿――と、極々ありふれた(と言っては失礼だが)ものだった。
しかし、私の心は弾み踊っていた。恋を知った少女のようにその人を想い考えていたり、図書館でその姿を見つけると顔が赤くなるのを自覚していた。
柄にも無いな、と思いつつ、この恋心は収まる気配を見せない。困ったものだった。
そんなときに、私はその人の癖を発見したのだ。
癖、といっても本を選ぶ上での癖なので傾向、ないしは法則性と言った方が正しいだろうか。
その人の本を選ぶ法則性を知った私は喜びを噛み締めていた。
他の人には分からないその人の内面を知ったかのようで嬉しかった。
しかし、その喜びもつかの間、私は焦燥感に駆られることとなる。もし、この規則性のまま本を選ぶとするならば、彼が図書館に来るのはもしかしたら最後になるのかもしれない。そんな思いが頭をよぎったからだ。
なんとしてでも、その人と仲良くなりたい。でもいきなり話しかけるのは少し無理がある。
そんなジレンマの上、悩んだ私が出した一つの方法は、幼稚な考えでどこかの安いファンタジーのようなものだった。ものだったからこそ、
「あの人に、届きますように」
私はそういって、図書館にある一冊の本に栞を挟んだ。
「貴方と話がしてみたい」と書かれた彼女の心を代弁する栞を。