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Oreilg  作者: 篠崎
7/18

#7

彼らは自分たちの日常に危険が伴っていることを知っていますが、

自分たちを傍観者であると信じています。


「なあ瀬川。瀬川ってば!」

「……うん?」

 給食中にオンエアされたお昼の放送直後の放送室で、瀬川せがわこうはぼんやりと宙を見ていた。放送委員である彼は、無事やりきったというよりはむしろすでに毎週の日課となっているこの仕事をたんたんとやり終えただけの、なんとも味気のない気分にひたっていたところだった。

 瀬川がパイプ椅子に座ったままで振り向くと、よく知る男子の顔が瀬川を見ていた。

 そのクラスメイトはずいっと瀬川に顔を近付けて、鋭くささやいてきた。

「さっさと告白しちまえよ」

「……嫌だよ」

 ぼそりと答えて放送機材に向きなおろうとする瀬川に、山下は顔をしかめた。

「2年になったらクラス変わるんだぜ?クラス変わっちゃうかもしれないんだぜ瀬川。紫野崎とちがうクラスで修学旅行とか嫌だろ?」

「……嫌だけど。でもさ」

 すこし間をおいて、瀬川はため息と一緒に吐き出した。

「あいつ絶対、俺のことなんとも思ってないって」

「それは、おまえが話しかけたりとかって努力をしてないからだろ」

「そんなこと言われても……」

 決して色白ではない瀬川の顔が、あきらかに赤くなった。何度もなにか言おうと口をひらきかけて、またすぐに閉じてしまう。

「……無理。話そうとすると、めっちゃ緊張するし。なに話せばいいかわからなくなるし、なんかめちゃくちゃになって、余計にわけわかんなくなるし」

「おまえが紫野崎をすげー好きだってのは、よく分かった。けどな瀬川、それをどうにかしないと始まらないんだぜ?」

「わかってる。わかってるよ。でも……」

 ちょうどそのとき、タイミングよく放送室のドアがひらいた。

「ちわっす!今日もナイスDJでしたコウ先輩!」

 坊主頭に童顔の男子が片手を上げて元気よく現れる。瀬川はちょっと顔をしかめてみせた。

「先輩じゃねえし入って来んなよ。関係者以外立ち入り禁止だろ」

「山下だって来てんじゃん。つーか今のセリフ、Oreilgの男の声が言いそうじゃなかった?瀬川ってOreilg目指してんの?」

「目指すってなんだよ」

 言い返した坊主頭に、瀬川はさらに言い返した。童顔がむっ、とふくらむのを見て、山下は吹き出した。

「浩太郎ほんとにOreilg好きだな。話す相手がいなくて教室出てきたのか?」

「大正解!」

 びしっと親指をつき出す山田浩太郎。それは単にクラスの空気からあぶれただけではないかと瀬川は思ったが、口には出さないでおいた。

「ていうかOreilgは正義の味方なんだぜ?ヒーローなんだぜ?もっと愛してやんねーとコレだめだって!」

「わかったわかった」

「しかも謎だらけってすごくね?世間様に現れて十年以上なのに、アジトの一つも不明とか怪奇現象ぽくね?」

「いや……いまいち意味わかんねーし」

 瀬川の言葉に、山下も小さくため息をついた。

「たしかに、いろいろと分かってないこと多いよな、Oreilgって」

「だろ?」

 どうやら山田の話につき合ってやるつもりらしく、山下は狭い放送室の中の残りのパイプ椅子にどっかり腰かけた。

 山田はのりのりだ。

「ほら、テロてか起きる直前に危険を知らせるあの男の声って、同じ人の声に聞こえるじゃん?」

「オペレーター室みたいなところから、電波で声飛ばしてるんだろ」

「そう思う?思うだろ?でもそれを疑わせるような出来事があったんだよ過去に!!」

「……どんなことだよ」

 目をきらきらさせながら語る山田の話に、不本意ながらも瀬川は引き込まれつつあった。

「5年くらい前にさ、どこかの街でテロ組織とOreilgがぶつかり合ったことがあって、そのときも、『どこどこから半径何十メートル域にいる人間は避難しろ』って拡声器から男の声の放送があったんだ。でも実は、少し離れた場所でほとんど同じ時間に通り魔殺人も起こってた。……このとき奇妙なことにさ、テロを知らせる放送と通り魔を知らせる放送が、あっちとこっちから聞こえてきたんだって!」

「……まじで?」

 思わずこぼした瀬川の言葉に、山田はぶんぶん首を縦に振った。

「だからあの声は、同じ男の声じゃなくて、その場にいたOreilgが変声機で変えた声ってことだと思うんだよ俺!!」

「おまえ、それ本当ならすげー発見だな」

 山下が感心したような声を上げた。瀬川も同じ気持ちだった。たしかにOreilgは世界中にいるのだ。どこかしらで声が重なっていたとしても、不思議ではないのかもしれないが……

「やっぱりそう思う?実はほかにも、活躍が一切監視カメラに残らない情報ゼロの透明人間みたいなOreilgとか」


 ブツッ。


 突然、頭上のスピーカーが音を立てた。

 マイクがはいったのか?手元の機材を確認すると、ランプがついて電源がオンになっている。瀬川は慌ててボタンを押した。ランプは消えなかった。

 2回3回と押すが、電源は落ちない。

 そんな馬鹿な。瀬川の様子を見て、山下と山田が手元を覗きこんできた。状況を察して真顔になる。ちょっと待て、これってまさか……。3人の視線が不安げに交錯した。

 スピーカーから、たった今話題にしていた男性の声が流れてきた。

「Oreilgより通達。校内に犯罪者が侵入。現在1年校舎に向かって西側廊下を通過中。警戒せよ」

 ウソだろ。

 瀬川は目の前がまっ暗になったような気がしたが、そんなものを軽くふっとばすおかしなテンションのヤツが1人いた。

「すげえー!!この学校にもOreilgいたのかよ!一体どんな先生が……ひょっとして体育の岡本先生だったりして!」

「ばか、おまえの説が正しいかどうか、まだわからないだろ?そんなこと言ってる場合かよ」

 顔を紅潮させて興奮気味な山田をいさめながらも、山下はまんざらそうも思ってはいない態度だ。今となっては瀬川も同じである。

 この放送があったからには、避難しなければならない。山下が深刻な顔で瀬川を見た。

「1年校舎に向かってるってことは、教室には戻れないよな。職員室に入れてもらうか?」

「それはよくないって言われてるだろ。でも戻ったら、最悪犯罪者と鉢合わせするし……」

 刻一刻を争うなかで判断にあぐねていると、山田がふいに口をひらいた。

「なあなあ、オープンライブラリーにいても、教室には戻りにくいよな?」

 オープンライブラリーとは、中里中の図書館のことである。図書館とその外側を隔てる壁がないことから、オープンライブラリーと呼ばれている。

「は?」

 瀬川は、山田の言葉の意味が分からなかった。瀬川の疑問符に、あのさ、と山田が続けた。

「さっき紫野崎、図書館で本読んでたんだよ。俺、見たんだ」

 一瞬、瀬川は放心状態のようになって、頭がまっ白になった。

 だが次の瞬間、放送室から飛び出して全力疾走していた。


続きは身辺が落ち着き次第、更新させていただきます。

ご意見・ご感想をよろしくお願いいたします。


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