#2
あらすじを先に読まないとわけがわからない仕様になっております。
ご了承ください。
拙い表現力のために何もかも伝わらない可能性があります。
ご了承ください。
そのうえでご意見・ご感想、ご評価などいただけたら幸いです。
早朝。私服の相模が道端の自動販売機で缶コーヒーを買っていた。
小銭をいくらか財布から取り出して投入する。ボタンを押すと電子音が鳴り、ガコンと音がして缶コーヒーが落ちてきた。相模はそれを取り出し、アルミの蓋に指をかけて起こす。
だが指に力を加える寸前、相模は何者かの視線を感じて素早く振り向いた。
電柱の影に人の気配。振り向きざまに抜いたダガーを、相模は油断なく構えた。
「マサルか?」
若い。同年代の男の声だ。電柱の影からすうっと抜け出てきたのは、金色の短髪ストレートにブルーの瞳のアメリカ人だった。
相模は少しだけ肩の力を抜いて、薄く笑みを浮かべながらゆっくりとダガーをおさめた。
「クランド……どうした?」
「モギュアールがマサルを呼んでる」
相模の笑みは浮かんだ途端に消え失せた。
「朝早くから済まないね。サガミ」
いいえ、と相模は答えた。
どっしりとした濃い色の木製のデスクの向こうに、初老の男が座っている。白銀の髪をやわらかにオールバックにした優しげな青い瞳の持ち主。彼が、相模や紫野崎を組織に招き入れた張本人である。
ルイス・ラヌール・モギュアールの書斎に呼ばれた相模は、直立不動でデスクの前に立っていた。
「急ぎの用事だ。君の力を借りたい」
「なにか深刻な問題でも?」
モギュアールはふむ、と顎に手をやった。
「深刻でなければいいと思っているんだがね。今のところどう転ぶかは見当がつかない」
「俺にしかできない事なんですか」
相模の言葉に、モギュアールは深く頷いた。
「率直に言うとシノサキの件だ」
相模の目がわずかに見開かれた。そのまま押し黙る。
モギュアールに一隊員のために呼び出されたことなど、かつて一度も無かったことである。相模が言い知れぬ不安を覚えるのは当然のことと言えた。
「……なにかやらかしたんですか、あいつ」
「彼女はなにもしていないよサガミ。彼女は常に我々の組織の理念に沿った行動をしてくれる素晴らしい人材だ。失くすには惜しい」
ふとモギュアールは視線を落とした。
「サガミ。君は半月ほど前のシノサキの報告を受けているか」
「報告?」
半月前。相模は記憶をたどり、ある出来事を思い出した。
「紫野崎が林の中で人殺しの男と相まみえた時の話ですか?」
頷くモギュアールに、相模の疑問はつのる。見透かしたかのように、モギュアールはゆっくりと語り出した。
「その場に居合わせていた十数名のギャラリーには緘口令を敷いたのだが、情報漏れがあったらしい。シノサキが我々の中で最年少であることも、その他の個人情報についてもまだ公にはしていなかったから念を入れたつもりだった。しかしそれが裏目に出てしまったようだ」
モギュアールはそこで言葉を切り、「サガミ」と呼びかけた。
「シノサキの情報は、日本に駐留しているテロ組織に伝わった可能性がある」
書斎がしん、と静まりかえった。長い沈黙。
「……それは」
相模が声を絞り出す。口の中が渇いていることをはじめて自覚した。
「それは、つまり紫野崎を、俺らの中の重要人物だと思い込んで、狙ってくるかもしれないってことですか」
相模はゆっくりと頷くモギュアールを凝視したまま動けなかった。
Oreilgの情報は非公開に等しい。そんな中で、Oreilgの証をつけた奴が戦って悪人を殺していたら俺たちの敵はどう思う。そいつが女で、ガキだったら。
「私としてはその可能性はかなり高いと思っている。近いうちに動きがあるだろう。シノサキの通っているジュニアハイもすぐ見当がつくだろうから、学校が襲われるというパターンも想定しておかなければならない」
「だったら本部でかくまってやればいいじゃないですか」
相模の言葉に、モギュアールの眼光が鋭くなった。見る者を威圧させる雰囲気が一瞬、部屋の中を支配する。
「サガミ。他のメンバーが今の状況だったら私はそうしただろう。だがシノサキについてはそれは駄目だ」
「失くすには惜しいって言ったのは嘘なのかよ」
すかさず反駁した相模の声は怒りに震えていた。相模の様子を見ても、モギュアールは落ち着いていた。
「嘘はない。大切な存在であるのは君も同じだ。大切であるから、どれだけでもその人間個人の尊重をしたいと思っている」
「……どういう意味だよ」
モギュアールの眼から鋭さが消え、憂いをたたえた色になった。
「私は……シノサキの日常を奪ってしまっている。そのことについてなにも感じていないわけではない。シノサキは素晴らしい。だが同時に申し訳ないとも……思っている」
「……」
相模は無言でモギュアールの言葉を聞いていた。頭の中で今の言葉を反芻させ、モギュアールが「我々が」ではなく「私が」紫野崎の日常を奪ったと言った意味を、よくよく汲み取った。
「学校は彼女に残された家族以外の唯一の日常だ。シノサキからそれを奪うのは、あまりにも酷なことだとは思わないか」
モギュアールの言葉に、相模はなにも言い返せなかった。
少しずつですが頑張って載せていくのでよろしくお願いいたします。
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