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Oreilg  作者: 篠崎
13/18

#13

 迷彩服と防弾チョッキ、黒い戦闘靴を履いて小銃を抱えた自衛官が2人、フロアのまん中に立っていた。

「自衛隊の方々ですか?」

「そうだ。君は……」

 相模の問いに頷いた1人の自衛官は、相模の両手にはめてある赤と青のグローブに目をとめた。

「助けに来てくれていたのか。しかし、君は見たところ中学生だね?」

「はい。1人でとても不安だったんです。来てくださって本当にありがとうございます」

 相模はほっとしたように笑った。

 ……天使の微笑みで。

 もう一人の自衛官が相模に問いかけてきた。

「この学校に犯罪者が侵入したと連絡があったんだが。今どこにいるか知らないか?」

 相模は顎に手をやって、少し考える仕ぐさをした。

「その犯罪者なら、今俺の仲間と戦ってますよ。芸術棟の方にいるって、さっき無線で話しました。今から助けに行こうと思っていたところです」

「その、芸術棟というのは?」

「あなた方から見て左の、あっちです」

 そう言って、相模は1年校舎とは真逆の方向を指さす。

 自衛官の二人は顔を見合わせた。

「……そうか。それなら探す手間が省けるな。ありがとう」

「いえ、お役に立てて光栄です」

 にこりと相模は笑った。

 ところで、と相模はゆっくりと言った。

「俺の仲間がもう一人いるんですけど、後輩なんで挨拶させましょうか?女でOreilgになった強者ですよ」

 相模の言葉に、1人の自衛官は感心したように頷いた。

「それはずごいな。今どこにいるんだ?」

「先程から、あなた方の背後に待機していますよ」

 2人の自衛官は驚いたように背後を振り返った。



 たったそれだけの瞬間に、事態は動く。



 乾いた発砲音が連続して響いた。

「ぐう!?」

 苦悶の声を上げて、自衛官たちは相模を振り返った。

「遅い。お前らほんとにColtelloか?本物の自衛隊の方がもっと動きいいぜ」

 相模は6発撃ち終わり、すでにスピードローダーでリボルバーに次弾を装填していた。そしてまた発泡。

「ぐああ!」

「でもまあ今のは仕方ないか。お前らの狙いは最初から女でガキのOreilgだからな」

 相模の発砲は、相手に小銃を構える好きを与えない。小銃を抱えた利き腕と思われる肘を最初に狙い、続いて腕、そして肩。利き腕でない方の肘にも一発ずつ。

 神業的な速度で標準を合わせて繰り出される弾は、しかし決して狙いを外さなかった。

 程なくして自衛官と名乗った2人の男は床に倒れ伏した。血が広がるのを見下ろしながら、相模はなおも銃口を向けた。

「死んでもらっちゃ困るんだ。逃げ切れないと分かって自殺ってのも古い手だ。それも困るから先に手足潰させてもらった」

 言いながら、1人の上半身を蹴り上げる。

「安心しろよ。失血死ってのもないと思うぜ。貫通するような弾で撃ってないからな。当たって中に入るとマッシュルームみたいに広がるやつだ。痛みが最高だろ?」

「……なぜだ。なぜ我々が偽者だと分かった……っ!」

 蹴り上げられて仰向けにされた男が、苦痛に顔をゆがめ歯をむき出すようにして相模にうなった。

「それに気付いてない時点で死亡決定だろ。馬鹿が」

 相模の表情に感情はない。声すら起伏をもっていない。まるで殺意の塊のようだ。

 欠片ほど残っていた表向きの親切も優しさも全て拭い去った本物の相模がそこにいた。

「お前たちはっ……警察よりもタチが悪いッ!民間人のフリをして我々の邪魔をして、一体なにが目的だッ!!」

 わめくように吠える男に、相模は眉をひそめた。

「お前ら、よっぽど下っ端なのか?治安乱して住みにくくしてんのは、お前らが好き勝手してるからだろうが」

「黙れッ!お前たちさえいなければこの世界は……」

 男の言葉はふいに途切れた。


 刹那。フロアの天井に空いた巨大な三角形の穴から1階へ。

 巨大な影が、落下してきた。


 ずん、と床が震えるのと同時に、ぐしゃりとなにかが潰れる音がした。

「ぎゃあああ!!」

 男の絶叫。

 木製の大きな本棚が、本がぎっしり詰まった状態で男の両足の上に落ちてきたらしい。

 さすがの相模も目をみはった。

 二人の男はほとんど並ぶようにして倒れているのに、そのうちの1人にだけ当たるように正確に落ちてくるのはどういうことか。しかもかなりの重量であろう本棚を動かすなど、人間一人の力でどうにも……

 そこまで考えた相模は、ぴんときたように天井の空洞を見上げた。

 同時に天井から、声が降ってきた。

「悪いね。僕はマサルほど気が長くないから」

 その、声の主に。

 相模は片頬で笑った。

「……意外だな。お前が助けに来るなんて思わなかったぜ、クランド」

 声の主は、天井の穴を囲む手すりに片腕でもたれるようにして相模を見下ろしていた。

「マサルが死んだらつまらないからね。ライバルとして当然だろう?」

 ブルーの瞳を細めて、アメリカ人の少年はにっこり笑った。



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