第四話 御神籤に食われ、そして異世界
魔王を倒したダイヤは、仲間たちとともにコメッサァに戻った。旅はこの街から始まった。
今いる世界には御神籤を引いてやってきた。あの怪しい神社の胡散臭い籤売りの男が持っていた御神籤だ。
実はここに至るまでに二回御神籤を引いた。
一度目、神社で引いた御神籤は末吉で、『争事』という項目が強調された御神籤だった。
いや、『強調された』などという生やさしいものではなかった。他に何と書かれていたかまったく覚えていないのだ。
その御神籤に食われ、そして異世界に吐き出された。
だだっ広い平原に、燃える匂い。
座り込んでいた地面がゴゴゴと震えていた。何だろうと考える前に、地鳴りに人々の声が加わった。騎兵を含む大勢の兵士が迫り来る音だった。
大埜は人と人とが争う世界に放り出されたのだった。
突如戦場に現れた謎の存在は、一つの勝利をきっかけに小国の軍に英雄として祭り上げられる。こことは異なる世界から来たという英雄が、元の世界の知識を駆使して小国を大国へと押し上げる――という世界だった。
どうしてか、御神籤を引いたらそんなことに巻き込まれる羽目になった。
頭屋曰く、
「あなた様がお参りもせずに御神籤を引いたりなさるからでございますよ」
ということだったが、何の説明にもなっていない。
ひとつだけ理解できたのは、
「次に御神籤が引けるのは、この世界の人の願いを叶えたときでございます。この世界で叶える願いといえば……まあ、わかりますでしょう?」
その部分だけだった。
戦場のど真ん中、両側からそれぞれの軍が迫り来る中で、頭屋はあの時と同じ顔で笑った。そして「それではごゆっくり」と言い残して姿を消した。
大埜は彼の言うとおりにした。
この世界の人の願いというのが何であるかはとてもわかりやすかった。
英雄になること。それだけだ。
だから腹をくくって、自分のことをアニメやゲームの主人公だと思うことにした。英雄になりきってやった。
武術の才能があるわけでも、頭が良いというわけでもない普通の中学生男子がどうやって英雄になるか。
強くも賢くもなかったが、そういう類いの物語はいくらか知っている。戦略シミュレーション系のソーシャルゲームは得意だし、兄が毎週欠かさず大河ドラマを視聴する人間なのでつられて見ている。おかげで城の攻め方や謀略の巡らし方は何となく知識として身についている。
そういうもので得た『戦い方』を駆使した結果、大埜は小国の英雄としての使命をまっとうできた。大埜が助けた小さな国は世界を制覇した。
新しい世界の王にならないかと打診されたそのときその場所に、しばらくぶりに頭屋が姿を見せた。
「この世界の王になりますか? それとも御神籤を引きますか?」
例の顔だ。今日はどちらかといえば悪人に見える。
「おみくじなんてどうでもいいよ。元の世界に戻してくれ」
大埜が言うと
「それならなおさら」と頭屋は籤筒を押しつけた。
「おみくじを引けば戻れるのか?」
「それはあなた様次第でございます」
「戻れないってことも、あるのか?」
「ですからあなた様次第でございますと」
「戻れないのか?」
「あなた様が戻りたくないと望むことがあれば、そういうこともございましょう」
「そんなこと思うわけないだろ」
「それなら、どうぞお引きください」
どうぞどうぞと促す。
大埜は腹が立っていた。
何の説明もなくこんなことに巻き込まれ、元の世界に戻れるかどうかもわからないと言われ、自分にできることといえば御神籤を引くことだけ。
言いなりになるしかない事態が腹立たしくて仕方なかった。
「引いてやるよ。それで、元の世界に絶対に戻ってやるからな!」
頭屋への怒りを籤筒にぶつけた。
叩きつけるようにして振って、番号を手に入れる。
二度目は三十二番。
引き出しから乱暴に取り出した神籤箋には『中吉』と書かれている。その下、今度は二つの項目が認識できた。『旅行』と『方向』の二つだ。
それらが何を表わしているのかは、吐き出された先ですぐにわかった。
コメッサァの王城内に描かれた魔法陣の上で目覚めた大埜は、その場で自分の役割を知らされる。
二つ目の世界では、魔王討伐の旅に出る勇者というのが大埜の役目だった。




