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異世界御神籤  作者: 葛生雪人
一章 悩める少年と初詣と御神籤

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第二話 このままでいいのか、大埜

 ダイヤ――もとい能堀のほり大埜だいやが異世界に迷い込むはめになったのは、正月に近所の神社で引いた御神籤のせいだった。

 中学三年の冬。高校受験を間近に控え「正月なんて」と言うクラスメイトも多い中、大埜は松永まつなが由布季ゆうきを初詣に誘った。由布季は同じ学校の同じクラスの女子だ。三年間同じクラスで部活も同じだし、修学旅行の自由行動の班も一緒だった。

 何かおもしろいことがあったら真っ先に探すのは由布季の姿だったし、由布季の方もまず大埜のもとへ駆けてくる。

「お前らほんとに仲いいよな」

 と言われれば、

「うん、仲いいよ。ねー」

 と由布季は笑う。

 大埜はそれを聞きながら「えー? そうだっけ?」などと異を唱えてみせるが、内心では嬉しくってニヤニヤしていた。

 いつも一緒で。気が合って。周囲からは付き合っていると思われるような二人。

 だけど実際は仲が良いだけの二人。

 大埜が由布季のことをどんな風に思っていようと、二人の関係を表わす言葉は『仲の良い友だち』という、それくらいのものだった。

 しかしそんな関係すらも、あと三ヶ月ほどで終わりを迎えてしまう。

 彼女が目指している高校は、大埜が受験する高校とは距離も偏差値も離れている。

「このままでいいのか、大埜」

 家族とまったり過ごしたクリスマスの夜、自分自身に問いかけてみると急に不安になって、いても立ってもいられなくなった。

 冬休み。そんな焦りが大埜を動かした。

 意を決して由布季を初詣に誘った。

 ()()()()行くものだと勘違いした由布季がクラスの他のメンツに声をかけ始めたときは「終わった」と思ったが、受験前であることが幸いした。

 いや、あるいは友人たちが大埜の覚悟を察したのかもしれない。

 由布季が声をかけた六人はそろって「ムリー」とか「ごめん」とかそんな返事をメッセージアプリに送ってきた。

『ふたりかー』

『不満か?』

『私はいいけど。大埜は?』

『俺は』

 お前がいればそれでいいとか、最初からお前だけ誘う気だったとか、そんな本音を伝える度胸はなかった。

『しゃーない。我慢してやるか』

 ふてぶてしく笑う鳥のキャラクターのスタンプを送った。

『我慢してやるってなによ』

『何か言い残すことは?』と添えられた、同じ鳥のキャラクターがファイティングポーズをとるスタンプが返ってきた。




 初詣の約束は、新年明けて六日ということになった。両親の正月休みが五日までだから、それまでは家族を優先したいのだという。

 由布季らしいと思うし、そういうところも嫌いじゃない。

 約束は十時。集合場所は最寄り駅の改札前。

 いつもなら歩いて行ける距離にある神社で済ますところだが、受験生であることを口実にして学問の神様を奉っている神社まで足をのばすことにした。

 散歩ではなく、二人で出かけているという雰囲気にしたかったのだ。

 今日に込めた決意に由布季は気づいているだろうか。一緒に歩くうちに感じ取ってくれるだろうか。そういう感情を大埜が抱いていると知って、それを好意的にとらえてくれるだろうか。

 もしかしたら、迷惑に思うかもしれない。

 伝える前から、重苦しい空気になるかもしれない。

 そうなってしまったら、実にいたたまれない。

「いや、でも、あんだけウマが合ってるんだから、『嫌い』ってことはないだろ。あいつ、イヤなこととかはっきりイヤって言うタイプだし。それで言うと、俺、イヤとか言われたことないし。…………ないよな?」

 普段の様子を思い浮かべながらブツブツと呟く。スマホの通知音が鳴った。画面には由布季からのメッセージが表示されている。

『ごめん! 二分くらい遅れるかも!』

 鳥のキャラクターが必死の形相で謝罪している。必死なのにふてぶてしい感じがカワイイのだと由布季が言っていたスタンプだ。

「二分って。律儀か」

 大埜は笑った。こういうところも嫌いじゃない。むしろ好きだ、と心に花が咲く。

『大丈夫だ。俺は五分遅れるつもりだから』

 打ち返すとすかさず

『おい』と、文字とスタンプ。

 間を開けずSNSの投稿のリンクが貼られる。

『こういうのがカッコイイらしいよ』

 との補足があったので急いで開いてみれば、待ち合わせに遅刻する場合は「駅前に〇〇があるからそこ入って待ってて」というメッセージとともにドリンクチケットを送るような男が良いとか何とか――そんなことが書かれていた。

『五分に必要?』

『店探してるだけで五分終わりそう』

『そもそも先に遅れるって言ったのそっちだしな』

『二分でコーヒーはむりでしょ?』

『五分もな。っていうか、そういうことやるヤツ好きだっけ?』

『あ、苦手だったかも』

 照れ笑いの鳥のスタンプ。

 同じような顔をしているであろう由布季を思い浮かべて、大埜はだらしない顔をした。「うわ。何あいつ」とどこかから聞こえてきた。すれ違ったカップルから笑い声が聞こえた。

 大埜は慌てて表情を引き締める。寒さに身を縮めたフリをして真っ赤になった顔をネックウォーマーの内に隠した。

「やべっ。本当に遅れたらまずいぞ」

 スマホの画面を閉じて、大埜は駆け出した。



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