第十七話 夢を見ていた……ってわけではないよな?
御神籤に吐き出された。
顔に冷たい空気が貼り付く。大埜はぶるっと身震いをして周囲を見回した。
古びた神社の境内にいた。
小さな社殿があるだけの神社に、大埜は一人で立っていた。
「夢を見ていた……ってわけではないよな?」
大埜はしばらくの間、異世界に行っていた。御神籤を引いて、そのたびに知らぬ世界に飛ばされて。三つの異世界を渡り歩いて、ようやくここに帰ってきた。
――はずなのだが、それを証明するものはどこにもなかった。
頭屋も籤筒も箪笥も神籤箋の一枚も、どこにも見当たらなかった。
「でも、きっと夢じゃないよな」
きゅっと手の平を握り込む。冷え切った指先の冷たさとは違う何かの感触があった。大事なものを手にしたという実感があった。
「夢じゃない」
大埜は自分の言葉にしっかりと頷いた。
ポケットの中でスマホが鳴った。メッセージアプリの短い通知音。「由布季だ」と慌ててスマホを操作する。送信の履歴を見れば、前のメッセージから十数分しか経っていない。その間にどれだけの年月を過ごしてきたんだっけと考えるとおかしくて笑ってしまった。
「……じゃないや。時間! っていうか、由布季からのメッセージ!」
『二分くらい遅刻』から『間に合う!』に変わったようだった。
「やばっ。俺も急がないと」
駆け出そうと一歩二歩踏み出したが忘れ物に気がついて引き返す。
社殿に向かって一礼する。せめて挨拶をしてから立ち去ろうと思ったのだ。
「あれ? たしか、なんか正しいやり方とかあったよな。どうやるんだっけ?」
スマホに頼ろうとしたところでまた通知音が鳴った。
『早く着きそう!』
表示された文面に、大埜は思わず大きな声を上げた。ちなみに神社では大きな声を発してはいけないと大埜が知るのは、これより一時間ほど経ってからのことである。
結局、正しい参拝の仕方を調べる時間もなく、慌ただしく礼をして神社を飛び出した。
「急がないと! あいつより早く着かないと!」
大埜にはやりたいことがあるのだ。
それがしたくて、帰ってきた――は言い過ぎかもしれないが、
「絶対に早く着いてやるからな!」
大埜は言って、待ち合わせのその場所へと駆け出した。
了




