第十三話 それが、みんなの願い?
わかっていたことではあるが、
「これだけやってもおみくじは引けないとか、もうふざけんなって感じだよな」
「言葉遣いが悪くなっていますよ」
「なるだろ。これだぞ」
山と積まれた野菜と、脇に寝かせてある数匹の害獣。収穫をしつつ、野菜を狙う獣を捕獲しつつで、全て終わる頃には精根尽き果てていた。
「それでも魔王討伐なんかとは比べものにならないでしょう?」
「それはそれだよ」
大埜は草地にごろんと寝転がった。
くたくたに疲れてはいたが、徒労感はなかった。不本意ながら「やってやった!」とある種の達成感があったくらいだ。
太陽が南の空高くのぼっている。ぐうっと腹が鳴った。そういえば朝ご飯を食べ損ねたんだったと考えながら、いくつかの料理を頭に浮かべた。こちらの料理は元の世界――日本でいうところの洋食に近くて食材にも味付けにもすぐに馴染むことができた。
今日はあれを食べたいな、いやあっちかな、などと考えていると疲労も心地良くなってくる。
「あのさあ」
大埜は空を見上げたまま頭屋に声をかけた。
頭屋はいつもの調子で「なんでございましょう」と言って大埜のそばに来る。
「ここが大吉の世界で、それが神様が俺に見せた『答え』だって言うんならさ、元の世界に戻ろうとしてるのは『間違い』なんじゃね? ……って思い始めてるんだけど」
頭屋は「なるほど」とだけ言った。
「だってさ、ここが一番いい世界ってことだろ?」
テストもない。面倒くさい先輩もいない。親に怒られることもない。将来を考えて悲観する必要もない。ときどき無茶なお願いをされたりはするけれど、慣れればそれほど苦ではないし、大吉の世界にいれば良いことだらけだ。愛され、敬われ、信頼もされている。これだけのものが元の世界でも自分のまわりに揃うだろうか?
「元の世界よりも、こちらの方が良いと?」
「だって、大吉の世界だろ」
末吉でもなく中吉でもなく、と言ってアルコたちの顔を浮かべた。
「こっちの世界の方が良い世界っていうのが『答え』なんだよ」
ダイヤとして答えるならば、間違いなくそうだった。
しかし大埜として思考すれば、やはり元の世界が恋しくもなる。大埜は二つの世界の、二人の自分の間で揺れていた。
「さっさとこの世界のクリア条件がわかってたら、こんなことに気づかなくて済んだのになー」
大埜はわざとぶっきらぼうに言って、話をうやむやにした。
晴天の空を仰ぎ見て声を上げる。
「雨漏り直すとか、重いもの運ぶとか、美味しいもの食べさせてやるとか、そういうことじゃないんだよ。もっと、こう、大きいのないのか? 世界中の人たちの共通の願いみたいなやつ。本当にないのか?」
「そんなの簡単だべ。みんなの願いだべ?」
いつの間にかバルバが畑に来ていた。
大埜の隣にどっかり腰を下ろしてワハハと大声で笑う。
「なんだァ。俺はてっきりダイヤ様が便利屋でも始めたのがと思ってたんだげど、聞きたがったのは『みんなの』なんだな」
「そうだけど、バルバは本当に心当たりがあるのか?」
「もちのろんだァ」
自信たっぷりに言う。
「俺だちの願いは、ダイヤ様が、レギーナ様と一緒になってずっとあの方を支えてくれればなあって、そういうことだァ。いずれレギーナ様は王様になるだろうし、そんときにダイヤ様がそばにいてくれだら安心だ。そうすれば平和もいづまでも続くだろうしなあ。世界中かはわかんねえけど、少なくともこの国のみんなはそう思ってんべ」
「それが、みんなの願い?」
「んだ。間違いねえ」
バルバは言って深く頷いた。
思いがけない『願い』に、大埜はしばしの間言葉を失っていた。
「良かったですね」と頭屋が話しかける。それでも大埜はすぐには反応できなかった。いつもより多く瞬きをして、それからぼんやりとしたまま
「良かった……のか?」
とこぼした。




