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追放された悪役令嬢が前世の記憶とカツ丼で辺境の救世主に!?~無骨な辺境伯様と胃袋掴んで幸せになります~  作者: 緋村ルナ


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第7章:食堂の開店と静かに深まる絆

 辺境伯カイ様の絶大な協力のおかげで、私の夢は驚くべき速さで実現へと向かった。安定した食材供給ルートが確保できたことで、私は屋台を卒業し、ついに念願だった自分の店を構えることができたのだ。

 場所は「狼のねぐら亭」の隣にあった空き家を、マルタさんが格安で譲ってくれた。レオや騎士団の仲間たち、市場で顔なじみになった人々までが、まるで自分たちのことのように喜んでくれて、店の改装や掃除をこぞって手伝ってくれた。

 店の名前は、迷った末に「食堂ヴァインベルク」と名付けた。私を捨てた家の名前ではあるけれど、それでも私の半生を形作ってきたものであることに変わりはない。過去と決別するためではなく、過去を乗り越えて未来へ進むために、あえてこの名前を看板に掲げた。

 開店初日、店は満員御礼の大盛況となった。看板メニューの「ヴィクトリー・ボウル」はもちろんのこと、前世の記憶を頼りに開発した新メニューも、客たちに大いに受け入れられた。

 ブルートファングの薄切り肉を、醤油風調味料と生姜に似た香草で炒めた「ジンジャーポーク」。異世界の芋や野菜を、出汁と調味料で甘く煮込んだ「肉じゃがもどき」。どれも、この世界の人々にとっては初めて食べる味だったが、その素朴で温かい味わいは、荒々しい辺境の男たちの心を優しく満たしたようだった。

「アリア姉の飯は、腹だけじゃなくて心もいっぱいになるな!」

 レオの言葉に、客たちがどっと頷く。私はカウンターの内側で、その光景を涙が出そうなほどの幸福感と共に眺めていた。

 週に一度、私は約束通りカイ様の城を訪れ、厨房で料理指導を行うようになった。

 最初は、城の料理人たちから冷たい視線を向けられた。「どこから来たとも知れない小娘に、何が教えられる」というわけだ。彼らは、代々城に仕えてきたというプライドを持っていた。

 しかし、私が披露した調理法――肉を柔らかくする下ごしらえの技術や、出汁の旨味を最大限に引き出す方法、そして何より、完成した料理の圧倒的な美味しさの前に、彼らの態度は少しずつ変わっていった。

「お嬢さん、今の、もう一度見せてくれ!」

「その調味料の配合は、どうなっているんだ?」

 やがて彼らは、私を「アリアンナ先生」と呼び、尊敬の念を抱いてくれるようになった。

 そんな厨房に、カイ様がふらりと顔を出すのが常になった。多忙な執務の合間を縫ってやってきては、「試作品だ」と私が差し出す小皿の料理を、真剣な顔で味見していく。

「……美味い」

 ぶっきらぼうな感想。けれど、彼の金色の瞳が、その一言が本心であることを雄弁に語っていた。

 私たちは、料理を通じて、少しずつ言葉を交わすようになった。辺境の厳しい気候のこと、この土地で採れる珍しい食材のこと、そして、カイ様がどれだけこの土地と領民を愛しているかということ。私も、自分の過去を少しずつ打ち明けた。もちろん、前世の記憶のことは秘密のままだが。

 彼が持つ無骨な優しさに、私の心は少しずつ惹かれていった。そして、カイ様もまた、私の作る料理だけでなく、逆境の中でも笑顔を忘れずに前を向く、私の芯の強さそのものに惹かれていることを、私はうっすらと感じ始めていた。

 ある日の夜。その日も店は大繁盛で、最後の客を見送り、一人で後片付けをしていると、店の扉が静かに開いた。

 そこに立っていたのは、カイ様だった。

「まだ、やっているか」

「カイ様! どうかなさいましたか?」

「いや……腹が、減った」

 少し照れたようにそう言う彼に、私は思わず笑ってしまった。

「ふふっ。でしたら、特製のヴィクトリー・ボウルをお作りしますね」

 私は彼のために、特別なカツ丼を作った。いつもより少し厚切りの肉を、じっくりと丁寧に揚げて。

 カウンター席に座ったカイ様は、黙々と、しかし本当に美味しそうにカツ丼を頬張った。その姿を見ているだけで、私の心は温かくなる。

 食後、お茶を飲みながら、カイ様はぽつりぽつりと自分のことを語り始めた。狼の獣人の血を引くことで、王都の貴族たちから内心で蔑まれてきたこと。この厳しい辺境を守り抜くという、領主としての重責。

 私も、自分の境遇を素直に話した。婚約者に裏切られ、両親にさえ見捨てられたこと。その孤独と絶望。

 言葉を交わすうちに、私たちの間には、静かで、しかし確かな信頼関係が芽生え始めていた。

「……また来る」

 帰りがけ、カイ様は短くそう告げた。その言葉と、去っていく大きな背中に、私は確かな温もりと、淡い恋心の始まりを感じているのだった。

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