第11章:元婚約者の後悔と私の決断
リリアの失脚と、彼女が企んだ国家を揺るがすほどの陰謀の露見。その事実は、エドワード殿下の心を根底から打ち砕いた。
自分が心酔し、全てを捧げて守ろうとした聖女は、国を売るスパイだった。そして、自分が嫉妬深く愚かだと断罪し、無慈悲に追放した婚約者は、何一つ悪事を働いていないばかりか、自らの力で道を切り拓き、多くの民に愛される存在となっていた。
何が正しくて、何が間違っていたのか。答えは、あまりにも明白だった。
全てが終結した後、エドワード殿下は私の前に現れた。彼は、王太子というプライドも何もかもをかなぐり捨て、私の足元に崩れ落ちるようにして跪いた。
「アリアンナ……すまなかった……!」
彼の額は、冷たい石の床に擦りつけられている。
「私が、私が全て愚かだった! リリアの嘘に騙され、君の真実の心を見ようともしなかった。君がどれだけ私のことを想ってくれていたか、今更ながらに……思い知ったんだ。どうか、私を許してほしい。そして、王都に戻り、再び私の妃になってはくれないだろうか」
土下座をしての謝罪。それは、王太子としてありえない行為だった。彼の後悔が、本物であることは伝わってきた。
周囲にいた貴族たちも、リリアが失脚した途端、手のひらを返したように私に媚びへつらい始めた。「やはりヴァインベルク嬢こそ、次代の国母に相応しい」「殿下と、どうかお幸せに」。
私の両親――ヴァインベルク公爵夫妻でさえ、これで家の名誉が回復されると、喜びを隠せない様子で私に復縁を勧めてくる。
「アリアンナ、お前の無実は証明されたのだ。もう一度、王太子妃としての道を歩むのだ」
けれど。
私の心は、ぴくりとも動かなかった。
私は静かに、しかし、はっきりとエドワード殿下の申し出を断った。
「エドワード殿下、お顔をお上げください。あなたの謝罪は、受け入れます。ですが、あなたの妃になることは、もうできません」
「な……ぜだ……? 私は、これから心を入れ替え、君だけを愛すると誓う! 君が望むものは、何でも与えよう!」
「私が望むものは、もうここにはないのです」
私は、きっぱりと言い放った。
「殿下、あなたは私を信じなかった。リリアの言葉だけを信じ、私の訴えに耳を貸そうともしなかった。私が絶望の淵にいた時、あなたは冷たく私を突き放した。……それで、全て終わりなのです」
壊れた信頼は、もう元には戻らない。一度裏切られた愛情が、再び燃え上がることはない。
「私の居場所は、もはやこの華やかな王都にはありません。私の居場所は、私の作った料理を『美味い』と笑って食べてくれる人々のいる、あの辺境の町なのです。私を信じ、守ってくれた、大切な人たちが待つ場所に……」
私の言葉に、エドワード殿下は力なく項垂れた。彼にはもう、私を引き留める言葉が見つからなかった。
私はそんな彼に背を向け、傍らで静かに私を見守ってくれていた、カイ様の元へと歩み寄った。
カイ様は何も言わず、私の手を優しく、力強く握ってくれた。その温もりが、私の選択が間違っていないことを告げてくれていた。
エドワード殿下の後悔も、貴族たちの賞賛も、両親の期待も、今の私にはもう関係ない。
私は、過去と完全に決別した。そして、自分の力で、自分の意志で掴み取った未来を、選ぶのだ。
カイ様と私は、視線を交わし、頷き合う。そして、私たちを待つ愛すべき仲間たちのもとへ、第二の故郷であるフォルティスの町へと、共に帰るのだった。




