第23話:私たちの冒険はこれからです!
白い空間にいた。足元は継ぎ目のない平らな床で、見渡す限り壁も何もない、真っ白な空間だ。そう、俺があの世界に降りてくる前に通された、女神様の領域である。
「おめでとうございます♪ 健一郎さん、そして美希さん」
聞き覚えのある声。この歌うような喋り方は、間違いなく「あの」女神様だ。そしてミキもまた俺の隣にいる。
「私たち、成し遂げたのね!」
「ええ、あなた達は無事に使命を果たしました。誇っていいですよ♪」
ミキと手を取り、どちらからともなく抱き合う。そういえば二人とも制服姿だ。この空間に最初に来たときも確かそうだったはずで、つまり転移する直前の服装のままこちらに来たということになる。
「お二人とも、今すぐ自分たちの世界に戻られますか?」
「いや……できれば仲間たちにお別れを言いたいな」
いずれ去らなければならないとは思っていたが、まさか魔王が滅んだ瞬間に転移するとまでは思っていなかった。
「そうですねえ、今すぐこの場に連れてくるというのは難しいのですが……悪くない形で解決しましょう」
「なんだか、曖昧な言い方だなぁ」
「ケン、失礼でしょ」
「まあまあ。それにしてもあなた達でここまで成し遂げられるとは思っていませんでした。今すぐ特別報酬くらいはご用意いたしますよ。さしあたって、こんなものはいかがでしょう♪」
眼の前が白くなり、思わず目を閉じる。そして目を開くと大きなベッドのある、宿屋の部屋のような場所にいた。いや、宿屋というよりここは……。
「健一郎さんには、ここがどういう空間なのかわかりますよね♪」
「なにこれ、どういうこと? ケンならわかるの?」
女神様の姿が見えないが、心の中に語りかけてくるようだ。その声はミキにも聞こえているようで、困惑している。ああ、なんとなく察しが付いてきた。
「これっていわゆる……しないと出られない部屋、ってやつ?」
声に出すのが恥ずかしくて思わず口ごもってしまったが、そうだこれはエロ漫画の定番、「セックスしないと出られない部屋」だ!
「さすがですね♪ 心ゆくまで楽しんでください♪ 幸せな眠りのあとにあなた達の世界へとお帰しして差し上げます……あ、受胎は正式に結婚するまでお預かりしておきますので、ご安心を♪」
女神様のあまりにも露骨な一言に、さすがのミキも事情を察したようだ。
「ミキ……この前の夜の続きをしても大丈夫か?」
「うん……」
異常な状況には俺も戸惑っていたが、ベッドの上で彼女を抱きしめると体の中に熱いものが……今まで抑えられてきた本能が湧き上がってきた。勝利の高揚感もあり、お互いが激しく求め合う。キスと愛撫の嵐。邪魔な服を、今度はチートスキルではなく自らの手で脱がせ合い、生まれたままの姿になった二人は……。
***
目が覚めると、少しカビ臭い部屋の中にいた。壁の隙間から外の光が差し込む。目が慣れてくると、隣にはミキが寝ていることと、壁のひとつに両開きの扉があることがわかった。
扉を開くと、そこは見慣れた景色……地元の神社の境内だった。俺たちは小さなお堂の中で眠っていたらしい。服装は、学校帰りに車に轢かれたときと同じ制服姿のままだった。床にはカバンも落ちているし、ポケットの中にはスマホも財布も入っている。
「ケン……?」
外からの光を浴びて、ミキも目を覚ました。彼女もやはり制服姿だが、カバンなどは持っていない。どうやら俺のためにお祈りをしてくれたときと同じ格好のようだ。
「俺たち、戻ってきたんだな」
スマホの電池が生きていたので日付を確認すると、事故からちょうど8日後の土曜日の朝だった。ミキがお祈りをした翌朝ということになる。あれだけの冒険の日々がたった一週間、ミキに至ってはわずか一夜の出来事だったのか。
*
家に戻った俺たちは涙とともに迎え入れられた。その後は念のために病院に行って検査を受けたりしたが、特に異常はなかった。神社の中にいたのは、衝突のショックで一時的に錯乱した結果ということにされた。
ワイドショーを賑わせた令和の神隠し事件はこうして解決した。日々の情報の洪水の中で、人々の記憶からはすぐに忘れ去られていくことだろう。
俺たちは日常へと戻っていった。今では冒険の日々も、例の部屋で愛し合ったことさえ、夢の中の出来事のようにしか思い出せない。
**
「おっすケン、早いな。元気そうでよかった。それにしても隅に置けない奴め。しばらく見ないうちに大人になったような気がするぜ」
月曜日。俺は早めに学校に行って、溜まっていたプリントやらを職員室で受け取ってきた。ホームルームが始まるまで教室で復習をしようとしていたところ、仲の良い友達がちょうど登校してきて話しかけられた。行方不明事件に踏み込まずに、軽い態度で接してくれたことがなんだか嬉しい。
神社の中でミキと一夜を明かしていたということはすっかり噂になってしまっていた。高校ではずっと別のクラスだったのであまり気づかなかったのだが、彼女はモテるのだ。なお、こちらの世界に戻ってからはせいぜい彼女の家に挨拶に行った程度で、デートをする余裕さえなかった。……少なくとも今のところは。
「ところで色男、聞いたか?」
「なんだよ、俺は1週間分の授業と宿題をカバーするのに忙しいんだ」
なんだか照れくさくて、ついついぶっきらぼうな返事をしてしまうが、彼は気にせずに話を続ける。
「知ってるか、転校生が来るんだよ! それも金髪美少女の外人さんって噂だぜ!」
そういえば職員室に行った時、担任の先生の机の上に、転校生についての書類があったのを思い出した。
「外人だったか? 名字だけは見たけど、普通に漢字だったぞ。ほら……糸杉さん、だっけ」
「馬鹿、名前だけで決めつけるなよ。親が国際結婚とか、帰化とかあるだろ」
「糸杉」という名前を口にしたとき、なんだか奇妙な懐かしさを覚えた。そんな名前の身近な仲間がいたような……。
*
「おはようございます。話を聞いている人もいるかも知れませんが、今日からこのクラスに仲間が増えます」
ホームルームで先生が挨拶をすると、一人の生徒が入ってきた。やや小柄、噂通りの金髪は青いリボンで結いてある。教壇の中央にやってきた彼女は、まさか……。
「はじめまして。今日からこのクラスで一緒に勉強をする、糸杉イリスと申します。よろしくお願いしますね!」
歓声とともに迎え入れられた彼女は、確かに俺と一緒に冒険をしたイリスだった。彼女は俺と目が合うと、そっとウィンクを飛ばした。特徴的なエルフ耳こそ無いが、やはりイリスだ。彼女はなぜここにいる? これもまた、女神様のおかげなのか? もしかすると他の仲間たちもこちらの世界に?
いずれにせよ、これだけは言える。これから、へんてこな学園生活が始まろうとしているということだ。
*****
チートスキル「脱衣」は世界を救う!
完




