最弱の俺、最愛の彼女を守るためだけに最強スキルを手に入れた件
いつも通りの春の日。
大学のベンチで、俺と美咲は桜を眺めながら他愛もない話をしていた。
「ねえ、蓮」
「ん?」
「……将来も、ちゃんと一緒にいられるよね?」
少し不安げな顔。
俺は即答した。
「当たり前だろ。俺は美咲と一生一緒にいる」
その瞬間。
――世界が崩れた。
轟音。光。
気づけば石造りの大広間に立っていた。周囲は甲冑姿の兵士や魔法使い、玉座には王。
そして、美咲の胸元に……光る紋章。
「勇者召喚は成功した。だが……なぜ一般人が混じっている?」
貴族たちがざわめく。
そう、俺はただの凡人。運動もダメ、勉強も中途半端。
勇者なんて肩書きとは無縁だ。
でも、美咲に勇者の紋章が刻まれてしまった。
「ですが陛下! この娘は虚弱です! 戦場に立てるわけがない!」
「……ならばその力だけ頂き、娘は祭儀に供する」
――は?
「ふざけんなッ!」
気づけば俺は美咲を庇って叫んでいた。
兵士たちが動き、剣が振り下ろされる。
その瞬間、俺の中に声が響いた。
《スキル【最愛の守護】が発動しました》
《効果:あなたが“最愛の人”を守るためにのみ、無限の力を行使できる》
……なんだそれ。
でも迷う必要なんてない。
俺は剣を奪い取り、兵士をまとめて薙ぎ払った。
「な、なんだあの力は! ただの凡人ではないのか!?」
ざわめく王侯貴族。だが俺は叫ぶ。
「俺は勇者なんかじゃない! でも、美咲を傷つける奴は絶対に許さないッ!」
そのとき――。
天井を突き破って、漆黒の巨影が現れた。
魔王。
「クク……勇者ではなく、ただの人間が立ち向かうか。面白い」
兵士たちが絶望で膝をつく中、俺は一歩も引かない。
背後で、美咲が必死に叫んでいたから。
「蓮っ……死なないで!」
その声だけで十分だった。
「美咲を守るためなら……俺は何度でも立ち上がる!」
力が溢れる。
全身が焼けるように熱い。骨が軋む。
それでも――止まらない。
俺は魔王の爪を素手で受け止め、その巨体に渾身の拳を叩き込んだ。
轟音。
魔王の甲殻が砕け、血が飛び散る。
「バカな……この力……!」
「バカなのはお前だッ! 俺はただ、美咲を守るためだけに強くなったんだ!」
――そして、最後の一撃。
全身全霊の拳が、魔王の胸を貫いた。
巨体が崩れ落ち、静寂が訪れる。
誰もが呆然とする中、俺は振り返って美咲を抱きしめた。
「大丈夫だ。もう誰にも、お前を傷つけさせない」
その瞬間、世界は再び光に包まれる。
……気づけば、俺たちは大学のベンチに座っていた。
桜が舞っている。
「……夢?」
美咲が戸惑う。
だが俺の手には、勇者の紋章が刻まれていた。
そして、あの声が響く。
《物語はここで終わる。だが――愛は続いていく》
俺は笑った。
彼女を守るためなら、何度でも戦う。
それが俺の、唯一にして最強の力だから。
――完――