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私は森の中

作者: ルルのまま

「私」が不思議な森の中ヘ入って行くと…

目の前に森がある。

どこまで続いているのか、まるで見当もつかない程、大きくて深い森。

その入り口から、少しばかりひんやりとした森の中ヘ足を踏み入れる。

怖くない。

全くと言っていいぐらい怖くないのは、一体どうしてなんだろう。

わからない。

わかるのは、昂る気持ちを抑えきれない自分。

私は怖いものを何も知らず、好奇心だけがズンズンと独り歩きしていた子供から大人にかけてのあの頃の様に、森の奥へ奥へ。

草の生えていない黄土色の粘土質の幅の狭い細い道を辿って行く。

どれぐらい進んだんだろう。

まだまだ続く道の先と、振り返った今来た道の印象がそっくり過ぎて。

何故か笑ってしまった。

「さてと…」

同じ様な木ばかりに囲まれた道を進むと、徐々に木の密集度が薄れてきた。

つい今しがたまでの薄暗さから、明らかに明るくなってきている。

足を止め、ふと頭上に目を移すと。

「…あ…空…」

白に近いグレーと白に近い水色が混ざったみたいなくすんだ空。

丁度いい。

目を開けていられない程眩しかったら、きっと暑いだろうし、すぐに歩き疲れてしまいそう。

これぐらいが一番なんじゃないだろうか。

徐々に拓けてきた道は、気のせいか薄っすら上り坂。

その僅かな斜面を上る様に進むと、そこに短い芝生の丘が現れる。

丘の一番高いところには、空を覆い尽くす様に広がった大きな木が一本。

その下には何故か座り心地の良さそうな、私の好きなピンク色のソファー。

そして、その前には丁度いい高さと大きさの楕円形のテーブルが置いてある。

テーブルの上には、美しいガラスのティーセット。

お揃いのガラスのお皿には、私の好きなケーキが可愛らしく乗っかっている。

一体誰が用意してくれたのだろう。

私の為のものなのかしら?

まあ…そんなの今はどうでもいい。

それより…

ああ、素敵!

なんて居心地がいいんだろう。

遠くで小鳥のさえずりと一緒に、微かに、微かに音楽が流れている。

アコースティックギター、ピアノ、ヴァイオリン、ウッドベース、アコーディオン…

昔の、古い時代のジプシージャズかしら?

木陰のソファーに腰掛けて、まずはアイスミルクティーを一杯。

「ああ、美味しい…なんて美味しいんだろう…」

お次は苺やブルーベリーが乗っかっている、生クリームたっぷりのケーキを一口。

ふかふかのスポンジ生地はココア風味。

「…幸せ…」

この森に来て良かった。

どこからいつの間に来たのか、まるで思い出せないけれど、この森に来て良かった。

心の底からそう思った。

お腹が膨れたから、今度はソファーに寝っ転がってみた。

そよそよと弱い風が、私の体の上をなぞる様に通っていく。

あまりの心地良さに、ついうとうと。

うとうと…うとうと…

ガリデブって、ガリガリに痩せてるの?それとも太ってるの?

…う〜ん、むにゃむにゃむにゃむにゃ…


「お客さん!お客さん!もう終点ですよ!起きてください!お客さん!」

誰かに激しく肩を揺すられ、ハッとなった。

「…ヘ?ヘ?…」

どうやら私はうっかりバスの中で眠ってしまっていたらしい。

「えっ!嘘っ!えっ!えっ!…」

まだあの森の中がにわかに夢だとは思えず、いきなり現実世界に連れ戻されたパニック状態ではあったものの、バスを降りて辺りを見渡すと、やはりこっちが現実なのだとようやく理解できた訳で。


「…あ…どうしよう…こんな知らないところに来ちゃったよ…あ…じゃあ…今乗ってたのと反対のに乗れば…」

そう思ってバス停の時刻表を急いで見た。

「…もう…ない…ど…どうしよう…」

さっき、私を起こしたバスの運転手さんは、乗ってたバスと共にとっくにいない。

民家など周りを見渡してもない。

当然、人なんて誰もいない。

あるのは、錆びついたバス停とベンチのみ。

普通、こんな辺鄙な場所までうっかり来ちゃった人がいたら、心配の一つもしてくれても良さそうと思った。

「しょうがないなあ…乗ってくかい?」とか、声をかけてくれたっていいじゃないのよ。

私は寝過ごした自分のことを棚に上げ、運転手のことを「冷たい人でなし」などと恨んだ。

それにしても、視界に広がるのは緑ばかり。

伸びきった雑草、自由に生えてる木がいっぱい。

…いっぱい…いっぱいの木…あれ?なんだろう?あそこ…見覚えが…

空が赤みを帯びている。

もう夕暮れ時じゃないか。

本当なら今すぐにでも家に帰らなきゃいけないって焦るところなのに、私の足はどういう訳かバス停を離れ、木がいっぱい生えている見覚えのある場所へ向かっていた。

よろよろと歩き、ついさっき見たばかりの様な、森の前まで来てしまった。

「…あ…この感じ…さっきと…おんなじ…かも…」

目線を上へ動かすと、首が痛くなる程高い木々が鬱蒼としている。

きっとみんななら怖くてこんな場所、すぐにも逃げ出すと思う。

だけど、私…怖く…ない、みたい。

ついさっきまで見ていた気持ちのいい景色とそっくりな、この森の奥へ足を踏み入れてしまった。

「わあ…やっぱり…やっぱり…さっきと同じ…そうそう…さっきも確かこんな感じで…」

歩き始めて程なく、私は一旦足を止め、さっきと同じまだまだ続く道の先を見つめ、その後振り向いて今来た道を見ると、私から少し離れたところに大きな真っ黒い影。

「…ん?なんだろう?あれ?」

そう思った瞬間だった。

目の前が真っ暗くなったと思った。


「…あ…あった〜!やっぱり、さっきの夢だと思ってたあれ…本当だったんだ〜…わ〜い!ケーキがさっきよりも沢山ある〜!あ、なんかご馳走もいっぱい!」


ダーン!ダダーン!

「仕留めたか!」

「ああ、仕留めたぞ!」

「よし!じゃあ無線で…」


「…ああ、こいつだ!こいつ!このでっけえ熊、去年からずっと追っかけてた黒マダラに違えねえわ!なんせこのデカさだからなあ…」

「間違えねえな、これは黒マダラだな…ここらの畑ば荒らして、養豚場の豚も…確か…6匹?」

「そうだ!6匹やられ、生まれたばかりの仔牛も3頭やられ、この先の養鶏場の鶏も10羽だったか、やられたんだよなあ…そんで飽き足らず、まさか…人さ、手えかけるとは…」

「…あの襲われて死んだ女の人…なんか知んねえけど、発見された時笑い顔だったってなあ…熊さ襲われて、さぞかし怖い目に遭ったはずなのに、なんで笑ってたんだべなあ…」

「さあ…知んねえ…」


私はあの森の中にいる。

いつからいるのか、いつまでいるのかわからない。

そんなことはどうでもいい。

それより今はこの幸せを楽しもう。


最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。

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