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宇宙猫は今日も宇宙(そら)に向かってアンテナを伸ばす  作者: 深川我無@書籍発売中
脳味噌chuchu〝INVASION〟

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99/102

File99 あの手とこの手

「やば……! こんな時間! ごめん! 用があるから今日はこの辺で勘弁して!」

 

 そう言って小林はそそくさと荷物をまとめ始める。

 

「アリ先とはうまくいっている?」

 

 星崎が目を細めて尋ねると、小林は少し困った顔をしてからこう答えた。

 

「またきちんと報告しますっ……! じゃあね! ちゃおー」

 

 僕らは小林の背中を見送りながら囁きあう。

 

「あれはうまくいってるな」

 

「おそらく用事とやらもアリ先絡み。それより空野。さっきの話……」

 

 僕らを含めて数名しか残っていない教室が、不思議な間の悪さで静寂に包まれた。

 

 水を打ったように静まり返る教室に居心地の悪さを覚えて、僕は返事をするより先に教室を出ようと合図する。

 

 星崎も同じ空気を感じ取ったらしく、何も言わずに頷いて僕についてきた。

 

 どちらからともなく第二図書室に向かい、いつものように長テーブルに腰かける。

 

 今朝の事もあって司書の爺さんの反応が気になったけれど、爺さんは相変わらず自分の作業に集中していて僕らには目もくれない様子だった。

 

 僕は覚悟を決めて話を切り出すことにする。

 

「なあ……本当だと思うか? さっきの話……」

 

「わからない。でも、あの言葉が出てきた……偶然とは思えない」

 

「でもさ……殺人事件に飛び降り自殺。いくらなんでも同じ学校でそんなに人が死ぬとは思えない。噂に《《でっかい尾ひれ》》がついてるんじゃないか?」

 

 すると星崎は大きなため息をついて首を振った。

 

 あ……久々に来るな……

 

「少しは成長したと思っていたのに残念。気を抜くとすぐに普通や常識に頼ってしまうのが空野の課題」

 

「じゃあその普通ではない考え方っていうのを教えていただけますか?」

 

 僕がしかめっ面でそう言うと、星崎は「ふふん」と鼻を鳴らして語り始めた。

 

「まず最初に思い出すべきは婦長の日記。婦長は警察も詳しく教えてくれなかったと書いていた」

 

「そりゃ一般人に事件のことを詳しくは話さないだろ?」

 

「相手は看護師。それなりの説明はあってもいいはず。でも日記からは当たり前の説明すら無かったような印象を受ける。つまり警察もこの件に噛んでいる可能性がある」

 

 星崎の話が見えてきた。

 

 どうやら隠蔽されている可能性があると言いたいらしい。

 

「でも、女子生徒の自殺と不審者による殺人事件なんて隠蔽する必要ないだろ⁉ 似たような事件ならテレビでも報道されてる!」

 

「きっと何か不都合な部分が隠されている……例えば……」

 

 その時だった。

 

 黒い影が僕らを覆った。

 

 咄嗟に見上げると、そこには血走った目で僕らを睨みつける司書の爺さんが立っていた。

 

 やば……

 

 いつの間にか声が大きくなっていたらしい。

 

 それにしたってこんなにも敵意と憎悪を向けられるものかと僕が内心思っていると、司書の爺さんがわずかに口を動かした。

 

 ぼそぼそ……

 

「え……?」

 

 爺さんは聞き取れないほど小さな声で何かを口走り、僕は思わずそれに聞き返した。

 

 どうやらそれがまずかった。

 

 爺さんはさらに目を見開いて、唾を飛ばしながら僕に向かって怒鳴り声をあげる。

 

「出ていけ……! 金輪際二度と、その話題を口に出すんじゃない……‼ 二度と第二図書室に来ることをこの儂が許さん……‼」

 

 あまりの剣幕に固まる僕の腕を、爺さんは骨と皮だけの細い手で掴んだ。

 

 咄嗟に爺さんの手を見ると親指以外の爪が剥がれて、赤い肉がむき出しになっていた。

 

 同時に僕は戦慄する。



 この手って……

 


 見間違えるわけがない。

 

 それは大塔病院に忍び込んだあの時に、塀の下から伸ばされて地面を滅茶苦茶に搔きむしっていた《《あの手》》と同じ手だった。

 

 僕は爺さんを突き飛ばして星崎の前に立ちふさがった。

 

 それを見た星崎が声をあげる。

 

「空野……⁉ 何をしている⁉」

 

「気を付けろ星崎……! こいつがスレンダーマンだ……!」

 

 爺さんは恨めしそうな目で僕らを睨みつけながらも、口元をニタリと歪め「ひひ…」と小さな嗤い声を出して立ち上がった。

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