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宇宙猫は今日も宇宙(そら)に向かってアンテナを伸ばす  作者: 深川我無@書籍発売中
脳味噌chuchu〝INVASION〟

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File87 雌マントヒヒと秘密のメモ

 星崎曰く、例のサイトには三十三本の動画がアップされているらしい。

 

 その全てに目を通すにはそれなりの時間がかかるとのことで、何度かに分けて動画を見ようというのが作戦の趣旨だった。

 

「とりあえず昼休みと放課後に一本ずつ見たい。でも第二図書室は見ずらい。どこかいい場所を知っている?」

 

「そんな好都合な場所知るわけないだろ……」

 

 僕がそう答えると、星崎はメガネの奥で目を見開いて後ずさった。

 

「陰の帝王ともあろう者が……第二図書室以外の隠れ家を知らない……?」

 

「陰キャって言えよ! うっとおしいなあ!」

 

 そんな事を話していると、ある場所が僕の目に留まった。

 

 よく晴れた冬の青空とグラウンドの狭間にあるその場所を指さして僕は言う。

 

「なあ、屋上って行けるのかな?」

 

「わからない……少なくとも、誰かが屋上に上っている様子はない」

 

「じゃあ、なんとかしてあそこに行ければ、誰の邪魔も入らないんじゃないのか?」

 

 僕らはしばらく黙ってから同時に口を開いて言った。

 

「なあ」

「ねえ」

 

 どうやら同じ人物を思い浮かべていたらしい。

 

「こういう時に役に立ちそうな奴といえば……」

 

「うん。幸子しかいない」

 

 僕らは互いに頷くと小林の教室に向かって歩き始めた。

 

 教室を覗くと賑わう教室の片隅で、小林はまた口を開いて窓の外を眺めている。

 

 今朝の様子を思い出して僕が顔をしかめると、星崎は「ほほう……」と感慨深げなため息をつきながら顎を触った。

 

「な? 様子が変だろ?」

 

 僕がそう言うと星崎は細めた横目で僕を見据えて呆れたような声を出した。

 

「空野……本気で言っている? あれは恋するマントヒヒの表情。アリ先絡みと見て間違いない」

 

「ああー。そういうことか……」

 

 結局僕らが近づいても、小林はずっと空を眺めたままだった。

 

 なるほど。美化されたアリ先の幻でも浮かんでいるのかもしれない。

 

 僕がそんなことを考えていると、星崎が唐突に小林の脇に正拳突きを打ち込んだ。

 

「うえ⁉」

 

 女子非ざる声が小林の口から飛び出すと、星崎は何食わぬ顔で話し始めた。

 

「おはよう雌マントヒヒ。実は相談がある。それとピンクな妄想は夜だけにして欲しい」

 

「ま、マントヒヒ⁉ 失礼しちゃう! それにピンクな妄想じゃないから!」

 

「実は屋上に行く方法を知りたい。何か知っている?」

 

「あの……私の言葉は完全無視でしょうか? え? てか屋上? あっ……テンコの方こそやらし……うえ……⁉」

 

 二度目の正拳が今度は鳩尾にめり込んだ。

 

 なんか様になってるな……

 

 僕がそう思いながら星崎を見ていると、小林も似たような感想を口にする。

 

「見かけによらず暴力的だよね……?」

 

「弱肉強食の世界で生き抜くためには武力が必要と悟った」

 

「全然わかんない……てか、ほんとに屋上行くの……? 入れないことはないけどあそこは……」

 

 少しだけ言葉に詰まった小林は、何事もなかったかのように会話を終わらせてメモ帳を開いた。

 

「はい。行き方。バレたらヤバいから気をつけてね? 生徒にもバレちゃだめだからね?メモは破って捨てて」

 

 小林は周囲に目をやってから小声でそう言い、メモを差し出してきた。

 

 僕らはそのメモを受け取ると静かに頷き、目立たないようにそっと教室をあとにした。

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