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宇宙猫は今日も宇宙(そら)に向かってアンテナを伸ばす  作者: 深川我無@書籍発売中
脳味噌chuchu〝INVASION〟

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File85 司書と管理人

 いつもより早い朝の校舎は不思議な静けさに満ちていて、どこか清潔な空気だった。

 

 それでも僕らはどこか落ち着かない気持ちを抱えながら第二図書室へ続く廊下を黙々と歩いて行く。

 

 そっと扉を開いて中に入ると、司書の爺さんはすでに受付にいて僕らを見るなり口を開いた。

 

「またお前らか……」

 

 いつも挨拶すらしない爺さんの予想外の反応に僕らは思わず固まった。

 

 爺さんは視線を名簿らしきものに落として、それ以上何も言う様子がない。

 

 僕らは小さく会釈して、爺さんの前を通り過ぎた。

 

 長テーブルに腰かけるなり、星崎がスマホの画面を開いて僕に見せる。

 

 そこにはメモ帳が開かれていて、僕への指示が書かれていた。

 

『あのサイトを見たい』

 

 僕が思わず星崎の顔を見やると、星崎は真剣な眼差しで小さく頷いた。

 

 僕はスマホを取り出して例の心霊動画サイトを検索した。

 

『かわいいですね 心霊動画』 検索

 

 僕らは息を呑んで結果を見守ったが、なぜか検索にヒットしない。

 

「おかしいな……」

 

「消されてしまった?」

 

 僕は少し考えてからパソコンと同期したブラウザから履歴を開くことにした。

 

 遡ると確かに『かわいいですね』と書かれたサイトの履歴が存在した。

 

 僕がそれをタップすると、あのサイトが現れた。

 

 真っ暗な背景、赤いフォント。

 

 ノイズが走っては表示が歪むエフェクトは、何度見てもやはり気味が悪い。

 

 星崎がスマホの画面を下げるように手振りで伝えてきたので、僕は画面をスクロールした。

 

 サイトの一番下まで着くと、そこには管理人の名前が表示されていた。

 

 管理人:LoVE18

 

「ラブ……じゅうはち……?」

 

 僕は自分でつぶやいた言葉に鳥肌が立った。

 

 大塔医院長が言っていた言葉を思い出す。

 

『男はラブとか何とか名乗っていたが……本名かどうか……』

 

 僕が慌てて星崎の方に顔を向けると、星崎も青い顔で頷いている。

 

「こいつが……病院をおかしくした元凶の……?」

 

「まだわからない……でも静香が襲われる動画をアップしている点を見ても、偶然とは思えない……」

 

 その時爺さんのわざとらしい咳払いが聞こえた。

 

 僕らは声をさらに低くして、話を続けようとしたが、爺さんの鋭い視線に気付いて断念した。

 

 かわりに本の谷間に潜り込み、本棚越しにMINEでメッセージを送りあう。

 

『それで調べたいってこのことか? ていうかどうやって気づいたんだよ?』

 

『気になってサイトを開いた。でもギガがかかるから動画は見れない』

 

『じゃあ、調べたいことって……』

 

『動画をチェックする。LoVE18の正体を突き止めたい』

 

 思わず息が詰まった。

 

 あのサイトの動画なんて、ろくでもないものばかりに決まっている。

 

 それにもましてLoVE18とかいう得体の知れない男の正体なんて、知らない方が幸せに決まっている。

 

 顔を上げると、本の隙間からこちらを見つめる星崎と目があった。

 

 星崎の目にも怯えの影が揺れている。

 

 星崎はそれでもスマホを握りしめ、メッセージを送ってきた。

 

『師匠も言っていた。その目で見極めた道を行けば、あるいは出口を見出すと。LoVE18の正体を見極めないと、出口には向かえない気がする。助けてほしい』

 

 僕はもう一度本棚越しに星崎を見つめて頷いた。

 

 どんなに恐ろしいことが待っていても、僕のすべきことは決まっている。

 

 僕が返事を書こうとしたその時、第二図書室の外から朝の放送が聞こえ始めた。

 

 陽気な放送部の声が響きどうでもいいアナウンスが終わると、《《あの曲》》のイントロが流れ始めて、僕らは同時に顔を見合わせた。

 

 ンピコピコピコ……

 

 ンピコピコピコ……

 

 

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