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宇宙猫は今日も宇宙(そら)に向かってアンテナを伸ばす  作者: 深川我無@書籍発売中
脳味噌chuchu〝INVASION〟

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82/91

File83 ジャックと静寂

 普段よりずいぶん早い電車に乗ると、当然のことながらそこに見られる顔ぶれも違った。

 

 より遠くに向かうのであろうサラリーマンたちは朝から疲れていて、学生たちは部活の朝練なのかジャージ姿の者が多い。

 

 そんないつもと様子が違う車両のせいか、はたまたうるさい小林がいないせいもあってか、乗客たちの会話やスマホに映る画面が妙に意識に入り込んできた。

 

 聞いてよ……一組の……日経平均株価は連日の下落を続けており……だりぃー……洗脳少女の最新動画……サイバー攻撃の影響か? 洗脳少女の所属する事務所の発表では……せーの! 脳味噌CHUCHU……都知事は新たに包括的なタクティカルTOKYO30の発足を……昨日世間を騒がせたGアラートの誤放送は……INVATION……あははは! 不倫が報じられた大臣の……バーカ! 環境問題の悪化は深刻であります……信じるか信じないかは……宇宙デブリは海洋プラスチックに次ぐ……LOVE……ざぁこざぁこ……現在行方がわからなっくっている……孤独死……一億総白痴化……十八歳……君の前頭葉……! 

 

 あまりの情報量の多さにめまいがして、僕は思わず目を閉じた。

 

 そうか……いつもはイヤホンをつけてたから……

 

 僕は星崎に没収されたイヤホンのことを思い出してため息をついた。

 

 どうやら随分あれに助けられていたらしい。

 

 仕方なく意識を別のものに向けようと見上げた吊り広告には宇宙服のような銀色のボディースーツに身を包んだ洗脳処女が妖しい笑みを浮かべていた。

 

 ピンクと水色に染めた分けた髪が、どこか脳味噌を連想させるデザインで、右耳から入った蛇が左の目から飛び出して舌を出している。

 

 背景は何かの研究室のような白いタイルで、ステンレスの台の上にはどこか危険で得体のしれない卑猥さを感じさせる器具が乗せられていた。

 

 ぞくりと下腹で何かが蠢くような感じがして、僕は慌てて視線を逸らす。

 

 サブリミナルが仕込まれている。

 

 そう言った星崎の言葉が脳裏に浮かんだ。

 

 確かにこのポスターには製作者の意図が感じられる。

 

 どこか邪悪で、たまらなく煽情的に思うのはサブリミナルのせいだろうか?

 

 ンピコピコピコピ……

 

 ンピコピコピコピ……

 

 奇妙な音が聞こえた気がした。

 

 僕はそれを振り払うようにスマホを取り出し星崎にメッセージを書いた。

 

            『なんか街がヤバい感じがする』

            既読

 


『DoのYOUに?』

 


           『わかんないけど……ざわざわする』

           既読



『スケベ。それは思春期』

 



 そこには僕を煽る猫のスタンプが添えられていた。

 

 なんだよこいつ⁉ ちゃんと打てるじゃねえか⁉

 

 僕が怒りに震えていると、遅れてもう一通のメッセージが送られてきた。

 

 見るとそこには

 


『ざわざわは消えた? 無事に来て。待っている』

 


 そう書かれていた。

 

『お前ってズる……』


 僕は書きかけのメッセージを削除して『消えた。もうすぐ着く』そう二言書いたメッセージを送信した。

 

 いつの間にか、周りの音は気にならなくなっていた。

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