file82 怪文書とお守り
翌朝、なぜか僕は少し早く目が覚めた。
スマホに手を伸ばすとMINEに通知の赤丸が付いている。
寝ぼけた眼をこすりながら画面をタップすると、星崎からのメッセージが表示された。
受信時刻はちょうど目が覚めたあたりで「なるほど、これが目を覚ました原因か……」と僕は顔を顰めながらも内容を確認する。
『おhあようgおzあいますTvをみろ』
「なんだこれ……? 怪文書か?」
文末にはご丁寧に猫のスタンプが貼られている。
僕はベッドから起き上がり怪文書の解読にかかった。
ものの一分もかからずに解読を終えると、誰もいないリビングに向かいテレビをつける。
『どのチャンネルを見ればいいんだよ?』
僕がメッセージを送るとすぐに既読がついた。
それなのに一向に返事がない。
痺れを切らした僕は通話機能を立ち上げる。
「あ、星崎?」
「空野……⁉ これは何ギガ使う⁉」
「は?」
「通話はギガを大量消費する禁断の魔術と聞いている!」
「一瞬なら大したギガにならないよ。気になるなら電話に変えようか?」
僕がテレビのリモコンを押しながら言うと、星崎が受話器の向こうで首を振っている気配が伝わってきた。
「どのチャンネルを見ればいい?」
「国民放送をつけて」
チャンネルを合わすと、真剣な顔のアナウンサーが真剣な面持ちで原稿を読み上げていた。
「洗脳少女の楽曲『脳味噌CHUCHU ″INVATION″』がGアラートから流れた問題で、洗脳少女が所属する事務所はこの件に本事務所は一切関りが無いとし、事件との関連を否定しました。SNSでは宣伝活動の一部ではないかと事務所の発表を疑問視する声も上がっています。消防庁もまた、今回のGアラートの誤作動を受けて、原因究明を急いでいるものの、現段階では原因は不明との声明を出しました。なおこの誤作動は北陸、関東、東海地方の一部地域で確認されているとのことです」
「これって昨日の……」
「うん。調べたいことがある。早めに学校に来れる?」
「分かった。今から準備する」
僕は急いで準備を始めた。
シャツを着ている最中、何の気なしに机を見ると、そこにはステンレスのカプセルが光っていた。
星崎がくれたお守り……名前なんだっけ……?
しばらく悩んで僕はそれを掴むと、持っていたチェーンを穴に通してそっと首にぶら下げた。
別に星崎がくれたから付けるわけじゃない。
肌に触れるステンレスの冷ややかな感触は、それから学校に向かうしばらくの間ずっと、そんな僕の胸を刺激し続けて、意識を逸らすことを許さなかった。




