File78 OPPとAI
やがて何もごとも無かったかのようにスピーカーは静かになった。
町ゆく人達もほんの少し立ち止まって首を傾げた程度で、別段興味もなさそうに流れて改札に吸い込まれていく。
僕は星崎の方を向いて、例の話を切り出すことにした。
「その、ちょっと付いて来てほしい所があるんだ……」
「エッチ……家に連れ込んで無理やりいやらしいことをする魂胆が見え見え……」
「しない……師匠が星崎を連れて来いって……」
「師匠?」
星崎はそう言って眉を潜めたが、何か思い当たったようにいつもの顔に戻って言った。
「この前話していた剣道の?」
僕は黙って頷いてから、つぶやく様に歯切れの悪い言葉を繋いでいく。
「ほら……またヤバい奴と会ったら、その……」
耳から火が出そうになって、残りの言葉が言えなくなった。
それなのに、星崎が僕の言葉の続きを待っているから、僕は消えてしまいそうな頼りない声で最後の言葉にバトンを繋いだ。
「お前を守らないといけないから……」
ボッ……
咄嗟に背中を向けた星崎の耳から白煙が上がる。
星崎はしばらく「が……」とか、「こ……」とか奇声を発しながら震えていたけれど、やがて大きく深呼吸をしてこちらに振り返った。
前髪を下ろしていて表情は見えない。
髪の隙間から覗く目をさらに細めながら、星崎は小さな声で僕に言った。
「い、良い心がけ……そいうことなら……つ、付き合ってもいい……」
時計を見ると時刻は昼の二時を回っていた。
四時ぐらいから道場生が出入りを始めることを思うと、タイムリミットは一時間ほどしかない。
「げっ……歩きじゃ間に合わない……やっぱり明日か学校のない土曜に延期するか?」
そんな僕を見て、星崎はスッと指を伸ばして言った。
「自転車……」
「あ……」
「二人乗りなら……間に合う……のでは?」
物言わぬ僕の自転車。
なぜか前かごにキジトラが乗った自転車。
星崎はスタスタとキジトラに近づいて頬を引っ張ると、荷台に跨ってサドルをポンポンと叩いた。
「善は急げ……運転手さん道場まで」
そう言いながらも、星崎はこちらを見ようとしない。
ということは、つまりそう言うことなのだろう……
僕も覚悟を決めてバクつく心臓をなだめながら自転車に向かった。
だいたい……
肩車や、手だって繋いだんだ……!
こんなのは別に何てこと……
ブツブツと心の中でつぶやきながらサドルに跨り、スタンドを外したその時、自転車が大きく揺れた。
「むっ……⁉」
そう言って驚いた星崎が僕にしがみついて、背中に柔らかい感触が広がった。
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!
むぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……!
どちらも声には出さなかったけれど、きっと同じことを考えていたと思う。
お〇ぱいがああああああああああ……!




