File74 心技体と実戦の剣
翌日も僕は学校を休んで師匠のもとに出かけた。
道場ではすでに師匠が面以外の防具を付けて待っていた。
「よろしくお願いします」
僕が頭を下げると師匠はどかりと床に座って手招きした。
「稽古より先に話があるだろうが? なんで今さら道場来た? 喧嘩する気なら儂が教えることはねえぞ?」
「実は……」
僕は少し躊躇ったけれど、ことの顛末を正直に話すことにした。
僕が真面目腐って化け物の話をする間も、師匠は少し眉を動かしただけで、薄目を閉じたまま黙って話を聞いていた。
僕が話し終えると、師匠は小さくため息をついてからゆっくりと口を開いて言う。
「ふぅ……要するにだ。星崎さんに頼まれて異変を調べることになったお前さんは、星崎さんにホの字になっちまったと」
「今の話を聞いてどう要約すればそうなるんだよ⁉」
「完璧な要約だろうが馬鹿弟子ぃ⁉ そんでもって、お前さんは星崎さんを守れる実戦の剣を求めてる。違うかい?」
「……それはそうだけど……」
師匠はボリボリと頭を掻いて立ち上がると、竹刀を振りながら話し始めた。
「剣道ってのはな……心技体の修練のためにある」
びゅぉっ……! びゅぉっ……!
竹刀が空を切る清潔な音が道場に鳴り響いた。
「お前が求めとるのは、その先にあるもんだ……」
びゅぉっ……! びゅぉおお!
ひと際強い風が、師匠を中心に逆巻いた。
「実戦の剣は、心技体、とりわけ心の伴わない半端者が振るえば、ただの凶刃。ギザギザハートの子守歌になっちまうって寸法よ。心の未熟なお前にそんな危なっかしいもんは教えられん」
「でも……!」
「でもじゃねえ……! 現にお前、星崎さんを傷つけたろ? 実戦の剣で付く傷は、そんなやわなもんじゃねえぞ……?」
ジロリ……と僕を睨む鋭い目に、僕は思わず引き下がった。
目に涙を浮かべた星崎の顔を思い出し、僕は強く拳を握る。
そうだ……弱い僕のままじゃ、またきっとあいつを……
「師匠……どうすれば心が強くなりますか……?」
そう言って見上げた僕を見据えて、師匠はにやりと口角を上げた。
「ちったあマシな顔になったな馬鹿弟子のくせに」
「馬鹿弟子じゃない……」
「心を鍛えるのはキツイぞ? やれるのか?」
「やらなきゃいけないんです……!」
「なら、儂の言う通りにしろ……」
「はい……」
師匠は僕を一瞥してから再びどかりと床に腰かけ僕を見て……笑った。
あ、嫌な予感しかしない……
「よし! じゃあ今から星崎さん、ここに連れてこい! 儂に紹介しろ!」
「絶対に嫌だ!」




