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宇宙猫は今日も宇宙(そら)に向かってアンテナを伸ばす  作者: 深川我無@書籍発売中
脳味噌chuchu〝INVASION〟

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File71 マインとプレアデス星人

 少女は誰も座っていない(から)の座席をチラリと見て、小さくため息をこぼした。

 

 今日は空野は休み……

 

 それでももしかすると、ガラリ……と後ろの扉が開いて、彼が現れるのではないかと思うと、ついつい目がいってしまう。

 

 落ち着かないまま迎えた昼休み、独り机でお弁当を食べていると、後ろの扉が勢いよく開く音がした。

 

 空野……⁉

 

 慌てて振り返ると、自分を呼ぶ大きな声が聞こえた。

 

「テンコー! 一緒に食べよ! あれ? 今日は空野休み?」

 

 小林さちはそう言いながら、購買のパンとプリンを抱えて空いていた少女の向かいの席に腰かけた。

 

「休みだと思う。何か用?」

 

「ぬふふふふ……! 聞いて聞いて! 誰にも言っちゃいけないんだけど……アリ先とMINE交換したの……!」

 

 スマホの画面を見せて小林は興奮気味に言った。

 

「そう。それはよかった。でも声が大きい。内緒なら小声で話すか場所をわきまえるべき」

 

「いっけない……!」

 

 小林さちは口を押えて辺りを見回す。

 

 少女はそんな小林さちのスマホをぼんやりと眺めていた。

 

 スマホ……

 

「聞きたいことがある」

 

 少女がつぶやくように言った。

 

「なになに? あの日のハイライト?」

 

「それはいい。スマホは月にいくらくらいかかる?」

 

「え⁉ テンコもスマホデビュー⁉ あ……! 空野⁉ 空野とMINEするため⁉」

 

 少女はこくりと頷いた。

 

「昨日十八歳になった。親の同意なしでも買えるはず。だからスマホを持とうかと思う」

 

 自分で言った言葉で、少女は思わず泣きそうになる。

 

 予期せず空野に食事に誘われ、予想を超えて楽しい時を過ごし、最高の誕生日になるはずだった。

 

 それなのに、余計な事を口にしたばっかりに、今は昨日が無ければよかったとさえ思ってしまう。

 

 そんな少女の事情を知らない小林さちは「おめでとう」とか「先に言ってよ」とか大袈裟にはしゃぎながら少女の肩を叩いていた。

 

「それで、月にいくらかかる?」

 

「うーん……ギガっていう通信量によるんだけど、ギガ使い放題だと五千円からって感じかな? でもMINEしか使わないとか、ギガが少ないプランでいいなら二千円以内であると思うよ!」

 

「二千円……本体は?」

 

「ちょい待ち」

 

 そう言って小林さちはスマホで何かを調べ始めた。

 

 しばらくすると目当ての情報を見つけたようで、その画面を見せて少女に目配せする。

 

「駅前のショップで学割アンド新規入会キャンペーンやってる! 本体結構いいのがタダになるって!」

 

 少女はそれを見ながらメモを取った。

 

「ありがとう。行ってみる」

 

「何をおっしゃいますか~! テンコは恋のキューピット……違った! 恋のプレアデス星人なんだから! これくらい当然だよ!」

 

 それからひたすらアリ先とのあれこれを小林さちはしゃべり続けた。

 

 少女はコクコクと頷きながら話を聞いていたが、やがてリンドン……と重たい予鈴が鳴り、小林さちは教室を立ち去っていく。

 

 それを見送ってから、少女はメモに視線を落とした。

 

 どくん……どくん……と心臓が高鳴るのが分かると、居ても立っても居られなくなる。

 

 少女は鞄を掴んで立ち上がり、誰に気づかれることもなく、ひとり教室を後にした。

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