File62 ノイズキャンセリングとハウリングノイズ
気持ちがそわそわと落ち着かない。
授業中、気が付くと星崎を盗み見ている自分が鬱陶しい。
アリ先と近しく話す星崎のイメージが脳裏に浮かぶ。
同時に”なぜ僕に相談したのか”という疑問が再燃する。
関係ない……あいつが誰と親しかろうと……僕には関係ない。
そう自分に言い聞かせてみても、やはり気持ちが落ち着くことはなかった。
それに考えてもみれば、星崎と僕は今、小林をアリ先と引っ付けようと奮闘しているわけで、星崎とアリ先がどうとかいう可能性は、限りなく低いわけで……
それでも断り切れずに仕方なくだったり、実はアリ先と星崎はツーカーの仲だったりというのも無い話ではないわけで……
そんなことを考えている内に、リンドン……リンドン……と重たいチャイムが鳴り響き午前中の授業が終わった。
やがて放送部の小話がスピーカーから流れ、流行りの曲が校内を埋め尽くし、猥雑とした自由の空気が充満していく。
僕は今朝突っ込んだ鞄の中の封筒を見て、星崎に声をかけようかと思ったけれど、結局声をかけられないでいた。
だいたい、学校で目立つ関りはしない約束だ。
星崎だって、僕といるところを見られたくないのかもしれない。
僕だって……
そうだ……。
僕はイヤホンでノイズまみれの世界を消去する。
独りぼっちの静寂がやってくる。
スピーカーと違わず、無味無臭の流行りの音楽は孤独を埋めはしなかった。
鬱陶しい……自分が一番鬱陶しい……
そうか。
僕ははたと気が付いた。
僕が消去したいのは、世界じゃなくて僕なんだ。
そう思った時、耳の中で歌うボーカルの声が、不気味に《《ぐにゃり》》と捻じ曲がった。
?
首を傾げた瞬間、耳をつんざくハウリングノイズがほとばしる。
「うわぁああああ……⁉」
僕は思わず立ち上がって叫んだ。
慌てて僕は周囲を見渡す。
きっとクラス中の奴らから白けた表情で見られているだろう。
そんな僕の不安と予想に反して、クラスメイト達も耳を両手で塞いで悲鳴を上げていた。
原因は分かりきっている。
黒板の上に備え付けられたスピーカーから流れる、イヤホン同様のハウリングノイズのせいだ。
僕も皆に倣って耳を塞いで顔を顰めた。
そこに耳を塞いだ星崎が鞄を抱えてやってきて言う。
「…………」
何を言っているのか分からない。
星崎は言葉を諦めて、オリジナルの手信号で付いてくるように僕に合図した。
僕はこくりと頷いて鞄を手に取ると、混乱する教室の後ろ扉からそっと外へ抜け出した。
廊下もやはり話を出来るような状況ではなかった。
僕らはスピーカーの無い場所を目指して校舎を後にする。
グラウンドや中庭は同じようにハウリングを逃れて出てきた生徒達でごった返していた。
「どこも凄い人だな……」
「人混みは落ち着かない。体育館裏に行こう」
「おう……」
別に他意はない事くらい分かっている。
それでも体育館裏という言葉が持つ魔力にやられて、あるいはさっきのハウリングノイズのせいで、冷え切っていたはずの僕の心臓は小さく息を吹き返していた。




