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宇宙猫は今日も宇宙(そら)に向かってアンテナを伸ばす  作者: 深川我無@書籍発売中
脳味噌chuchu〝INVASION〟

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File60 恋する乙女と変する男子

 喋り続ける小林と歩きながら校門あたりに差し掛かったころ、見慣れた後頭部を見つけて僕は立ち止まった。

 

 おはよう

 

 そう声をかければいいだけなのに、なぜかうまく言葉が出てこない。

 

 何を意識してんだよ僕は……⁉

 

 意を決して手を挙げた瞬間、小林がどでかい声で叫んで言った。

 

「てんこー! おっはよー!」

 

 その声で星崎が振り返る。

 

 僕は上げていた手をさっと下して小さな声で「おはよう……」と言った。

 

「おはよう幸子。おはよう空野」

 

「てかてか! 空野が阿利根先生と話す作戦立ててくれたんだけどめっちゃ策士なの! 実は腹黒だと思うんだよねー」

 

「空野は腹黒と言うよりムッツリスケベ。いつもパンツを探している」

 

「探してないしムッツリでもない。適当なこと言うなよ……」

 

「おやおや~? この休みの間に進展があったと見えるが?」

 

「何もありませんが?」

「別に何もない」

 

 声をそろえる僕らに、小林は呆れた顔で言う。

 

「あんた達ってほんと似た者同士よねー? いいな~羨まし~私も有利根先生と……前途多難か……」

 

 小林が大きな溜息をついて言った。

 

 僕と星崎は顔を見合わせてから小林に声をかける。

 

「まあさ……可能性はゼロってわけじゃないし……」

 

「うん。アリ先が高身長好きのロリコンの可能性も否定できない……」

 

 小林はバセットハウンドみたいに愁いを帯びた目で僕らを見ながら「あぁりぃがぁとぉぉ……」と声を震わせる。

 

「善は急げだな……」

 

「うん。今から職員室に行こう」

 

 二人で話し合っていると小林はバセットハウンドから人間に早変わりして悲鳴を上げた。

 

「ちょ……! 無理無理無理無理……! 心の準備もメイクも出来てない……!」

 

「おいおい……その準備はいつまでかかるんだよ……?」

 

「だいたいウチはメイク禁止。そんな状態で職員室に行くのは生活指導の田辺に捕まりにいくようなもの」

 

「そうだけどぉぉぉぉぉ……」

 

 僕らはまるで犯人を連行するように小林を職員室に引きずって行った。

 

 途中大声で叫びながら何度も抵抗していた小林も、職員室が見えた途端にしおらしくなってしまう。

 

 どうせならいつもの勢いでいけばいいのに……

 

 そう思っておきながら、おはようさえ満足に言えない自分を思い出して僕は気まずくなる。

 

 いやいやいや……

 

 僕のはそういうのじゃないし……

 

 コミュ障とか根暗とかの部類であって、恋なんかじゃ……

 

 チラリと星崎に目をやった。

 

 すぐに僕の視線に気づいて、星崎はこちらに目を細める。

 

「何だ空野? さては朝からエッチなことを考えている……? さすがは変態。恐れ入る」

 

「考えてない。そっちの方こそ、実はそんなことばっかり考えてるんじゃないのか?」

 

「……」

 

 黙るなよ……!

 

 思わず突っ込みを入れそうになった瞬間、職員室の前にたどりついた。

 

 この期に及んで逃げようとする小林をがっしりとホールドし、僕らは職員室のドアを叩いた。

 

「失礼します」

 

 そう言って開いたドアのちょうど正面。

 

 窓際の席に腰かけたアリ先が、コーヒーを片手に新聞を読んでいた。

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