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宇宙猫は今日も宇宙(そら)に向かってアンテナを伸ばす  作者: 深川我無@書籍発売中
ハイド・アンド・シークin大塔病院

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53/91

File53 亀裂と真空

「ほれ見たことか」

 

 そう言わんばかりの勝ち誇った表情で星崎が僕を見ているのを無視して、僕は大島ノンコに問いかけた。

 

「侵略対象の僕らを、君はなんで助けたんだよ……?」

 

「ああー、きみって結構細かいタイプなんだね? 幸せになりにくいタイプだ?」

 

「そうだぞ空野。今は助かったことを素直に喜ぶべき。宇宙人は確かに存在した! ノンコ。後で記念撮影」

 

「いいよー」

 

 ダメだ……こいつ宇宙人の存在に浮かれてる……

 

 てか、いいのかよ⁉ 記念撮影!

 

 星崎は僕にポラロイドカメラを差し出しアゴで何かを伝えてくる。

 

 撮れ……ということらしい。

 

 大きくため息をついてから、僕は大島ノンコと並んでガチガチに緊張する星崎にカメラを向けた。

 

 ポラロイドカメラのフラッシュが煌々と輝き、大島ノンコの黒い眼球に反射する。

 

 大島ノンコの真っ黒な目が不気味に輝き、僕は背筋に冷たいものを感じた。

 

 やはりこいつは人間じゃない……

 

 分かり合えっこない……

 

 現に僕の質問もはぐらかして、まともに答えはしなかった。

 

 嫌な予感がする……

 

 何を企んでるんだ……?

 

 星崎にカメラを返そうとすると、ジジジ……と音がして写真機の下から現像されたスナップが顔を出す。

 

 それを見て息が止まりそうになった。

 

 大島ノンコを取り囲むように、怒りの形相を浮かべたヒトガタが浮かんでいる。

 

 怨嗟の声が今にも聞こえてきそうな恐ろしい表情……

 

 歪に捻じ曲がった顔が呪いの強さを物語っているように思う。

 

「あはは……気づいちゃった?」

 

 僕は慌てて星崎の手を掴んで引き寄せると、写真を手渡し星崎と大島ノンコの間に立ち塞がった。

 

「見ろ星崎……こいつも化け物だ……僕らを油断させて何かするつもりだ……!」

 

「空野落ち着いて。わたしたちより強い相手が、わざわざ擬態する必要はない……擬態は弱い生物が……」

 

「悠長に話してる場合じゃない……! おい……いったい僕らをどうするつもりだ……? この写真の幽霊みたいにするのか……?」

 

「空野……」

 

「黙れよ……! お前は宇宙人に浮かれてるだけだろ……⁉」

 

「むっ……怯えてナーバスになってる空野には言われたくない……」

 

 僕らが諍いを続ける間も、大島ノンコは困ったように微笑み続けていた。

 

 その余裕が、余計に僕の神経を逆撫でする。

 

「大塔が言ってたのを忘れたのかよ⁉ ヤバい化け物は二人……! 一人は佐々木で、もう一人は……」

 

 それを聞いた瞬間、大島ノンコの表情が青ざめた。

 

「ダメ……! その名前を口にしちゃ……!」

 

 大島ノンコの声が響き渡ったが、手遅れだった。

 

「あいつが()()かもしれないだろ……⁉」

 

 僕はすでにそう叫んだ後だった。

 

 急に部屋の音一切が消え失せて、辺りはまるで海底のような静けさに包まれた。

 

 カン……カン……カン……

 

 遠くの方で警報が鳴った。

 

 けれどそれすらも、真空に封じ込められるようにして、音を失ってしまった。

 

 大島ノンコは口をパクパクと動かし、音のない声で僕らに言った。

 

「に、げ、て」

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