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宇宙猫は今日も宇宙(そら)に向かってアンテナを伸ばす  作者: 深川我無@書籍発売中
ハイド・アンド・シークin大塔病院

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File52 黒い眼差しとサイコキネシス

 女子生徒は男の背中をポンと叩いて僕の前に飛び出してきた。

 

「ほら。佐々木さんは帰った帰った! この子たち怖がってるじゃん?」

 

 セーラー服に身を包んだ女子生の顔が真正面から佐々木の顔を覗き込む。

 

 佐々木はまるで少女の顔を見まいとするかのように顔を逸らし、震えるように何度も頷いて後退りする。

 

「良い子良い子……! 佐々木さんは良い子!」

 

 少女が手を伸ばして佐々木の頭を撫でた。

 

 佐々木はビクッ……ビクッ……と何度も体を震わせてされるがままになっていたが、やがて逃げるように治療室のさらに奥にあるレントゲン室へと消えていった。

 

「さあて、自己紹介がまだだったよね……?」

 

 そう言って振り返った少女の目を見て、僕は戦慄する。

 

 少女の目には白目が無かった。

 

 まるで爬虫類のように濡れた黒一色の瞳が、透き通るように白い肌の上に浮かんでいる

 

「女の子もこっちおいでー?」

 

 少女は星崎の方に手をかざした。

 

 すると星崎を縛っていた結束バンドがひとりでにバチン……と音を立てて弾け飛ぶ。

 

「サイコキネシス……?」

 

 星崎の言葉に少女は何も答えずにっこりとほほ笑んだ。

 

 ちょいちょい……

 

 少女の手招きに合わせて星崎の体が引き寄せられる。

 

 物凄い速さで引き寄せられた星崎は、僕の隣で優しく停止した。

 

 今のところ少女から敵意は感じられない。

 

 けれど、大塔の言葉が頭の中でクルクルと回り、不安な気持ちが膨らんでいく。

 

 二人の化け物。

 

 佐々木と……

 

 静香……

 

「はじめまして。さっそく自己紹介するね?」

 

 僕の不吉な予想など微塵も意に介さない様子で、少女の形をした何かがそう言った。

 

 鼓動が早くなる。

 

 答えを聞くのが恐ろしい。

 

 もし彼女が静香と名乗れば、それは大塔が最も恐れた脅威ということになる。

 

 それでも下手に刺激するわけにもいかず、僕らはただ息を呑んで彼女の言葉を待った。

 

「私は《⁇⁇》 じゃなかった……大島……大島ノンコ! 君たちに非道いことはしないから安心して?」

 

 僕と星崎は静かに顔を見合わせる。

 

 そんな僕らを眺めながら、大島ノンコはニコニコと笑みを浮かべていた。

 

「ふふん……♪ もしかして二人って恋人同士?」

 

「はぁ⁉」

「ぬっ⁉」

 

 僕らが同時にそう言って振り向くと、少女はケラケラと笑いながら僕らを指さして言った。

 

「タイミングぴったりー! 相性ばっちりだね?」

 

 調子が狂う……

 

 それでも、会話が成り立つことに少しの安堵を覚えた僕らは大島ノンコに質問した。

 

「ここで何が起きてる……?」

 

 大島ノンコは困り顔で首を傾げると、あっけらかんとした声でこう答えた。

 

「うーん……地球侵略計画……かな?」

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