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宇宙猫は今日も宇宙(そら)に向かってアンテナを伸ばす  作者: 深川我無@書籍発売中
ハイド・アンド・シークin大塔病院

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51/91

File51 謎の言葉と存在しない未来

 出鼻の小手だ……

 

 武器さえ奪えば逃げ切れる……

 

 集中……集中……集中……

 

 ただ構えをとっているだけで大量の汗が噴き出してくる。

 

 文字通り命懸けなのだ。

 

 平静でいられるわけがない。

 

 余計な力が入り、息が上がる。

 

 さっさと動けよ……

 

 そう思い、痺れが切れかけた瞬間、男はすぐそばに置かれたキャスター付きのラックに丸鋸をガン……と置いて背中を向けた。

 

 は……?

 

 一瞬罠かと思考が固まるも、この機を逃せば次は無いと理性が叫ぶ。

 

 僕は理性の声に従い無言で背後から襲い掛かった。

 

「げふっ……⁉」

 

 飛び出したタイミングにぴったりと合わせて、男の後ろ蹴りが鳩尾に突き刺さっている。

 

 肺が縮こまって息ができない……⁉

 

 手足が痺れて力が入らない……⁉

 

 くの字に体を折りたたむ僕の手から、鉄パイプが滑り落ちていくの見える。

 

 口からは空気ではなく、ねばつく涎ばかりが出ていく。

 

 

「チャンスを逃すかもって焦ったか? かぁあああ……! ガキは経験不足でいけねえや……! 知ってか? チャンスなんて鼻からねえんだ……! 未来に期待するお年頃か……⁉ 大バカもんが……! どうせエリア51もろくに知らねえんだろ⁉ 未来は 《??????》 のモノだ……! 俺たちのような虫けらのための未来なんざ残されちゃいねえ……! もうすぐだ……! もうすぐ 《???》 が降臨する……! そうなれば、未来なんて……」

 

 聞き取ることのできない言葉を口走った男の手はワナワナと震えていた。

 

 どうやら怒っているらしい。

 

 かと思うと、今度は再び子どものように瞳を輝かせて嬉しそうにこちらを見て口を開く。

 

「ガキはじっくりじっくり痛めつけるとよ、旨味成分がドバドバ分泌されるって知ってか? それで作ったらよ? 絶対美味いシチューになるよな? な? な?」

 

 

 全身から冷や汗が噴き出して、僕は泣き叫びそうになった。

 

 その叫びさえも、痙攣を続ける横隔膜が許しはしない。

 

 その時星崎が、パイプ椅子を掴んで男に殴りかかった。

 

 しかし男は見もせずにそれを受け止めると、星崎の手首を掴んで頑丈な診察台の方へ引っ張っていく。

 

「離せ……! この変態マスク……!」

 

「慌てんな? おめえは後で、ピッカピカに磨いてやっからよ? 誰もが振り返るようなツルツルの別嬪さんにして、こいつと一緒にしてやっからよ?」

 

 男は結束バンドを取り出して星崎の両手を診察台に括り付けると、ゆっくりとした足取りで僕の方に戻ってきた。

 

 僕の髪を鷲掴みにすると、ズルズルと浴槽の方へと引きずっていく。

 

 嫌だ……嫌だ……嫌だぁああああああ……!

 

 声にならない呻き声を必死でひねり出すも、男の手に握られた丸鋸を見て体がピクリとも動かなくなった。

 

「指先からよ? ひとーつずつ、丁寧によ? 切断してやっからよ? 存分に泣き叫んで構わねえからな? ちっとも恥ずかしくねえからな? 小便を垂らしても、優しくふき取ってやるからよ? それでよぉ……おめえが動けなくなったらよ? ふふふふふふふ……! 今度は女の方をゆっくりゆーっくり、そこの()()()()()で磨いてやるからよ? そんでよ? ちゃあんと我慢できたお前によ? 丸裸になった女を見せてやっからな? な? な? な?」

 

 

 ガチガチと奥歯が音を立てる。

 

 本当は今にも失禁しそうだった。

 

 でも、星崎が、星崎だけは、た、た、助けないと……!

 

「にぃげろ……ぉお! ほし、ざきぃぃいい……!それを切って、逃げろぉぉおお…!」

 

 何とか声を絞り出す。

 

 それでも星崎は目に涙を溜めながら首を振ってその場を動かなかった。

 

 「絶対助ける…! 空野、諦めちゃダメ…!」

 

 ちゅいぃいいいいいいん……

 

 丸鋸の音がした。

 

 佐々木は僕の手を押さえつけ、指を切ろうと力を籠める。

 

 星崎の言葉が少しばかりの勇気をくれたおかげで、僕は負けじと拳を握りしめそれに抵抗した。

 

「強情っぱりなガキだなあああ⁉ 悪い子は手首からにしましょうねぇえ……?」

 

 ダメだ……


 き、切られる……


 「や、やめろぉおおおおお……!」



 丸鋸の刃が僕の手首に迫ったその時、パチッ……と音がして丸鋸がショートした。

 


「あぁあ? 良い時だってのに……?」

 

「何が良い時なのぉ?」

 

 佐々木の背後で聞き覚えの無い女の声がした。

 

 それを聞いた途端に男の顔から笑みが消え、代わりに引きつったような青い表情が浮かぶ。

 

 背後から男の顔を覗き込むようにして現れたのは、あの動画に映っていた女子生徒だった。

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