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宇宙猫は今日も宇宙(そら)に向かってアンテナを伸ばす  作者: 深川我無@書籍発売中
ハイド・アンド・シークin大塔病院

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File50 子羊と十一番目

 見てくれは間違いなく壊れた医療用丸鋸でありながら、切れ味と言っていいのかもわからない驚異的な切断面を前に僕らは言葉を失った。

 

 佐々木と思しき防護服の男はよろよろとたたらを踏みながら、まるで耳に入った水でも出すように、自分の頭を何度も叩きながら言った。

 

「あ……あ……あああああああ……! あたまがポチャンポちゃんだ。ポチャンポちゃんって犬がいたっけな? 股のあたりに」

 

 カン……カン……カン……カン……

 

 警告が頭蓋の内側に響き始める。

 

 こいつは完全にぶっ飛んでる……‼

 

「なあー? 二日酔いがよお……ずっと続いたらよお……? 何て名前になるか知ってっかあ?」

 

 正体不明の液体で汚れたゴーグルの奥からこちらを覗きながら、防護服のせいでくぐもった声が問いかける。

 

 僕らが黙りこくっていると、佐々木は滅茶苦茶に丸鋸を振り回しながら叫んだ。

 

「なあああああ⁉ 聞いてんだよぉおおおおお⁉」

 

「知らない……」

 

 震える声でそう答えると、男は首を振って肩を落とす。

 

「ガキに聞いても知るわきゃねえよなあ……俺は間抜けの大馬鹿だ……母さんに相談するしかねえよなあ……嫌だなぁ……叱られちまうよなぁ……」

 

 男は床にうずくまると、丸鋸を脇に置いて膝を抱えて泣き始めた。

 

 僕は星崎に目配せして、そっと出口に足を向ける。

 

「そうだ……!」

 

 男が顔を上げて叫んだ。

 

 その声でビクッと体が硬直する。

 

「なあ! いいことを思いついたんだ……! 二日酔いが治ったらよお? 叱られずにすむよな? な? な?」

 

「そうじゃないですかね……?」

 

 ゴーグルの向こう側で、まるで子供のように目を光らせる佐々木に戦慄しながらも、また暴れ出すのを恐れて僕は適当に返事をする。

 

 佐々木は鼻歌を歌いながら立ち上がると、丸鋸を手に取りステンレスの巨大な浴槽の方へと向かった。

 

 半身浴でも始めるのだろうか……?

 

 そうであってくれと祈るように佐々木を見ていると、男は浴槽の栓を嵌めてこちらを振り向いた。

 

「二日酔いには、シチューだよな? 知ってっか? 間抜けなジジイがよ、追い炊きを消し忘れて風呂ん中で眠っちまって、シチューになった話、知ってっか?」

 

 僕らは黙って首を横に振った。

 

 すると佐々木は大げさに天上を仰いで、両手を広げた。

 

「かあああああ……! 今のガキには伝わんねえか⁉ 《《ぜねれーそんきゃっぷ》》ってやつか? なあ?」

 

 カンカンカンカンカンカンカンカン……

 

 今や頭の中の警報は踏切みたいに鳴り続けていた。

 

 それでもどうすることもできない。

 

 男の行動は予測不能で隙が無く、それなのにこれから何をしようとしているのかだけは、嫌と言うほどわかってしまう。

 

「お前らはよお、俺のことを頭の悪い馬鹿だと思って見下してんだろうがよお、俺には学があるんだよ……ギリシャ語も知ってる。お前らは言うなれば、ギリシャ語アルファベットの十一番の子羊だ。子羊の血で罪は洗い清められる。わかるか……?」

 

 僕らは半泣きで首を振った。

 

 何か、何か逃げ出す方法は……?

 

「ギリシャ語アルファベットの十一番目は”Λ”……ひひひ……! わかるか? ラムダ……! つまり、お前らは子羊(ラム)だ……」

 

 ちゅいぃいいいいいいん……

 

 丸鋸に動力の宿る音がした。

 

 今度は男の口からではなく、ちゃんと機械から音が聞こえてくる。

 

「見ろ! ライトセーバーだ……! 俺はジェダイ……! お前らは……ラムダ……!」

 

 その時星崎の震える手が僕の左手をぎゅっ……と握った。

 

 冷たい彼女の手を通して、僕の体に血が通うのを感じる。

 

 同時に僕は、右手に握った冷たい鉄の感触に気が付いた。

 

 やるしかない……

 

 僕は星崎を背後に隠すと、両手でしっかりと鉄パイプを握りしめ、佐々木の方に切っ先を向けた。

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