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宇宙猫は今日も宇宙(そら)に向かってアンテナを伸ばす  作者: 深川我無@書籍発売中
ハイド・アンド・シークin大塔病院

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File47 秘密と開示

 後ろから鉄パイプで羽交い絞めにされ、僕は思わず情けない声を出した。

 

 それに気が付いた星崎がこちらに駆け寄ると、黒フードの男は掠れた声でつぶやいた。

 

「それ以上近づけばこのガキを殺す……」

 

 ゾクリと悪寒が走り、冷たい汗が脇を伝う。

 

 星崎もピタリと足を止めて、その場に立ちすくんだ。

 

 それを確認すると、男がゆっくりと頷きながら次の言葉を紡ぎ始めた。

 

「なぜお前たちはここに来た……? ここが何だか分かってるのか……? ここが一体どういう場所か、分かっててここに来たのか……?」

 

 その声は先刻の気の触れたような立ち振る舞いからは想像できないほど、落ち着いているように思えた。

 

 ごくりと僕が唾を呑むと、星崎が慎重に言葉を選びながらそれに答える。

 

「身の回りでおかしなことが起き始めている……その原因を探していてここに来た……あなたは何か知ってる?」

 

 男は小さくため息をついてから片手でフードを捲し上げた。

 

 白髪交じりのボサボサの髪が露わになり、深い皺を刻んだやつれた顔には蛍光灯の仄白い光が影を作る。

 

「知っているかだと……? この私に知っているかだと……?」

 

 鉄パイプを握る手がワナワナと震えだし、男の狂気が膨れ上がっていくのを感じる。

 

「ぎぃやぁあ゛ぁあ゛ぁあああああああああああ……!」

 

 突然甲高い声で叫ぶ男に全身が硬直する。

 

「私は……! こんなことになるとは……みなかった……! ……されたのだ……! 仕方なかった……! 以降誰も近づけないようにした……! それが私の責任だからだ……! それなのに……貴様らは……私に知っているかだと⁉」

 

 支離滅裂で意味不明。

 

 恐怖でまとまらない思考を加味してもだ。

 

 ちらりと星崎の方を見ると、彼女は目に強い光を宿して懸命に答えを探っているのが分かった。

 

 そんな彼女を見た僕は、無駄だとわかっていても、この期に及んで格好をつけて言う。

 

「逃げろ星崎……!」

 

「黙ってろぉおおお……!」

 

 鉄パイプが首筋にめり込んだ。

 

 気道と頸動脈を圧迫され、顔がみるみるうっ血していくのがわかる。

 

「やめて……この一件から手を引くし、あなたのことも誰にも喋らない」

 

 男の力が緩み、僕はゲホゲホと咳き込んだ。

 

 男はその間もブツブツと何かをつぶやいていたが、その言葉のどれもが意味の分からない不明瞭なものだった。

 

 命の危機に瀕してアドレナリンが放出されたのか、少しだけまともな思考を取り戻した僕が、何とか拘束から抜け出せないかと考えているその時だった。

 

 ゴツん……と鉄の扉に何かがぶつかる音がして、部屋の中の空気が固まった。

 

「くそ……厄介な奴が来た……大倉沙穂だ……彼女はルーパー。殺しても飛び降りた時点からループしてまた襲い掛かってくる……それでも……彼女よりは……彼女が来るまでに逃げないと……」

 

「どういう意味? 詳しく話して欲しい」

 

 星崎の言葉で男の表情が強張った。

 

 男は呻き声を上げながら激しく頭を掻き毟っていたが、やがて何かを諦めたように項垂れ、ぽつりぽつりと話し始めた。

 

「ここにはあと二人化け物がいる……一人は佐々木という防護服の男で、もう一人は静香(しずか)という少女の形をしている……静香が来る前に何としても放射線治療室にたどり着かねば……」

 

 佐々木という名前に憶えがあった。

 

 婦長の日記に書いてあった放射線技師の名前……

 

「あなたは何者……?」

 

 星崎が尋ねると、男はくくくと肩を震わせながら静かにつぶやいた。

 

「私か? 私は大塔和彦(だいとうかずひこ)。かつてこの病院で院長を務めていた者だ……」

 

 

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