File36 ナースセンターと遺留品
パチン……ジィィ……パチンパチン……
何個かごとに割れた蛍光灯が不安定な電圧で明滅した。
誰もいないナースセンターを照らす蛍光灯の明かりは、どこか肌寒い。
かつては活気に満ちていたであろう場所が荒廃しているとあれば、その薄ら寒さはひとしおだった。
「何かがわたしたちをここに導いたと考えるのが自然」
「こんなにも超自然な状況で何が自然だよ……」
そうこぼした僕を見て星崎がにやりと笑ってつぶやいた。
「今の返しはなかなか良かった。B級映画なら満点をあげたい」
「そりゃどうも……」
僕たちは動かないエレベーターを諦めて、恐る恐るナースステーションのゲートをくぐった。
蝶番のついた棚をパタンと閉じると人が通ることの出来る通路になる仕組みのゲート。
並んだ机の上にはカルテが山積みにされ、薬棚の中には当時の備品がそのまま残っていた。
「それで……何を探すんだよ……? 鍵はもうあるんだし、ヒントがないとこんな中から何も探しようがない」
「この病院の秘密が知りたい。看護記録を見れば何かわかるかも」
二人で手近なカルテに視線を落とした。
先ほどの『可愛いですね』が脳裏に浮かんで身が竦む。
「開けるぞ……?」
「うん……」
恐る恐るカルテを開くとそこにはびっしりと患者の情報が書き込まれていた。
いたって普通のカルテに安堵する。
投薬の記録や血圧、所見が書かれたカルテにおかしな所は見当たらない。
それから何冊か開いてみたけれど、そのどれもが普通のカルテだった。
「やっぱり洗脳とか、そんなんじゃないんだよ……」
「そうかもしれない。でもだからと言って普通の病院なわけがない……」
彼女の言う通りだ。
マネキンが襲ってくるような病院が普通の病院なわけがない。
僕はカルテを星崎に任せて、引き出しの中を調べ始めた。
ボールペン、書類、キャラクターのキーホルダー、ぬいぐるみ……
経年劣化した遺留品は、どれも不気味なオーラを放っている。
いくつか引き出しを開けていくと、一冊の古びた手帳に目が留まった。
ドクン……と心臓が脈打つのを感じる。
咄嗟に机の上を見ると、そこには婦長と書かれた三角のプレートが埃をかぶっていた。
「星崎……! 婦長さんの手帳があった……!」
二人で中を覗き込む。
書かれた内容は手帳と言うより日記のようだった。




