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File3 鼓動と胎動

 ぱっ……と手が解かれ、我に返った僕は慌てて手を引っ込めた。


 どっ……! どっ……! っと音を立てる心臓に気づかないフリをして、僕は小声で問いかける。


「良くないことってなんだよ? 力を貸すってなんで僕が?」

「わからない。まずはそれを調べる。空野いつも暇そう」

「悪かったな暇そうで……どうやって調べるんだよ? なにかも分からない悪い予感の原因なんて調べようがない」

「別に悪いとは言ってない。具体的にはピラミッドと同等のエネルギー場を発生させるような建造物を当たる予定」

「いちいち全部答えなくていいですから」

「今からナビゲーターを紹介する。ついてきて」

 

 ナビゲーター?

 

 何となく頼りにされたのが自分だけではないのが癪に障る。

 

 あからさまなため息をついてから、僕は鞄を取りに机に戻った。

 

 そんな僕の歩調にあわせて、星崎も隣の通路を歩いている。

 

 ぱた……ぱた……ぱた……

 パタ……パタ……パタ……

 

 ピタっ……

 

 本棚が途切れ、かわりに星崎の姿が目に入り思わず足が止まった。

 

 真っ黒な不揃いのショートヘアと黒縁メガネ。灰色のカーディガンは毛玉だらけでゴワゴワ。


 サンダルのようにかかとを履き潰した上履きが必要以上にパタパタと音を立てている。


 星崎は立ち止まる僕にはお構い無しで机に戻ると、どデカいUFOのアップリケを縫い付けた黒いトートバックを左肩に掛け学生カバンを右手で掴みながら、こちらを振り向き左の眉を動かした。

 

 どうやら「早くしろ」ということらしい。

 

 僕はため息交じりに机に向かい鞄を掴むと、ノロノロと星崎の後に従った。

 

 何となく、清楚で不思議系の超絶美女を思い浮かべていた自分に呆れる。

 

 そんなのがクラスにいれば、流石に顔と名前くらいは覚えていたかもしれない。

 

 星崎は無愛想な司書の爺さんに頭を下げると、キィィ……と音を立てて廊下に出ていった。

 

 僕が無言で外に出ようとすると、突然爺さんが声を出した。

 

「おい……」

 

 思わずびくりと肩を震わせ声の方に視線を向ける。


 爺さんはジィ……とこちらを睨みつけたかと思うと急速に僕への興味を失くしたようで再び視線を逸らしてしまった。

 

 何だよ……? 何で呼び止めたんだよ⁉ 失礼だろ⁉

 

 気分を害された僕は、そのまま何も言わずに部屋を出た。


 星崎は少し先の方で左手の五指をパッ……パッ……と繰り返し弾きながら歩いている。

 

 宇宙と交信でもしているのだろうか……?

 

 いや。考えるだけ無駄だろう。

 

 これはただの暇つぶし。

 

 家に帰っても何が待っているわけでもない。

 

 何か損をするわけでもないのだから、向こうが飽きるまで適当に付き合って、冷ややかな目で見ていればいい。

 

 そんな事を考えながらもなぜか心臓だけは、まだドキドキと強い鼓動を放ち続けていた。

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